有理数のブログ

ミステリ小説中心の、本や趣味について書いていくブログです。

2016年に読んだ本20選

あけましておめでとうございます。

 

一年前に「今年も更新がないかも」と書いたら、本当に更新できませんでした。

来てくださっている方には、本当に申し訳ありません。

今年もやはり更新できないかもわかりませんが、今年もよろしくお願いします。

2016年に読んだ本で特によかったものを紹介したいと思います。

ジャンルはごちゃまぜです。

 

城平京『雨の日も神様と相撲を』

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

 

  城平京は、私の人生にもっとも深い影響を及ぼした作家であり、私が愛してやまない作家です。1998年にデビューして以降、オリジナル小説はデビュー作の『名探偵に薔薇を』と『虚構推理』の二作品しか刊行していませんでした(デビュー前に短編がアンソロジーに採られたこともありますが)。寡作なのではなく、漫画原作を主にしていらっしゃるのです。そういうわけで、城平京の作品に触れる機会はあったのですが、やはりファンとしては城平京の「小説」が読みたいなあ、と思うこともあり。そんななか、ついに2016年、講談社タイガの一作品として発表されたのがこの『雨の日も神様を相撲を』だったのです。不思議なタイトルでしょう。そういう作家なのです。あらすじはというと「カエルの神様が信仰されている村に引っ越した元相撲少年が、カエルの神様に相撲を教える」というものです。意味不明でしょう。そういう作家なのです。しかし、これがひたすらに面白く、ロジカルにロマンチックで最高なのです。私が城平京のファンだから贔屓目に見てしまうのか、あるいは私のツボにダイレクトすぎるだけかもわかりませんが、カエルや相撲といった要素を濃密に絡ませ合い、ミステリ作家らしい方法論を巧みに張り巡らせた構成は見事という他ありません。青春小説として、伝奇小説として、滅法楽しい小説でした。

 

山田風太郎忍びの卍

  何度も言うのですが、山田風太郎は本物の天才で、面白いものを書かせたら日本で一番の作家と思います。何を読んでも確実に水準以上の面白さを見せてくれるので、本当にもったいないから、となかなか読まないのですが、昨年はこの一作品だけを読みました。案の定、最高に素晴らしい一作でした。「舌で舐めた部分を性感帯化させる忍術」「性行為をした相手に憑依する忍術」「性行為後に相手の女を殺し、その血液を刀で飛ばして血液に触れた者の肉を溶かす忍術」という、とにかく下品な術を扱う忍者たちが登場します。非常に馬鹿馬鹿しい設定なのですが、内容は激熱です。先ほど挙げたような忍術同士が、おおよそその術内容からは予想もつかない果てしない頭脳戦を繰り広げるのです。忍者たちの立ち振る舞いもかっこよく、勇ましく、哀愁が漂っていて、序盤で感じた馬鹿馬鹿しさは後半に向かうにつれ息を潜め、とにかく先へ先へとぐいぐい読ませてくれます。本当に素晴らしい作品です。

 

サラ・ウォーターズ『荊の城』

 

  このブログでは語ったことがないと思いますが、私は百合が好きです。女の子と女の子の関係が好きなのです。そんな界隈で「百合小説」の話題になるたびに必ず挙がるのがこの『荊の城』でした。上下巻でなかなか分厚いのですが、これも最高に面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。令嬢と女泥棒のささやかな交流、日常生活の細やかな描写の堅実さに、積み上がっていく心理のアンビバレンス。甘美な肌触りに酔いしれているところに殴り掛かってくる展開たるや贅沢の極みで、重厚にして絢爛なミステリー冒険譚を楽しみました。素晴らしい。ウォーターズはもっと読んでいきたいです。

 

コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない』『アルファ・ラルファ大通り』

 

アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

 

  毎年必ず一人くらい「今年はこの作家との出会いが印象的」という作家がいるのですが、2016年はこのコードウェイナー・スミスとの出会いが特に印象的です。言語感覚が美しく、しかしそれらがときどき説明されないまま進むので、まるで英語長文で判らない単語が登場した際、文脈で補うような、そういう読み方を促されます。しかし、それ故に想像力が翼を持って羽ばたくような、静謐な衝撃がやってくるSF作品群でした。何よりタイトルが素晴らしい。「星の海に魂の帆をかけた女」「帰らぬク・メルのバラッド」……ぞくぞくくるようなタイトルです。この「人類補完機構全短篇」シリーズは第三巻まで予定されており、最終巻を待っているところです。楽しみです。

 

カーター・ディクスン『ユダの窓』

ユダの窓 (創元推理文庫)

ユダの窓 (創元推理文庫)

 

  カーはゆっくりゆっくり読んでいます。『ユダの窓』は評判がよく、どれほどすごいのだろうと思って読みましたが、これはすごいですね、もうにやにやが止まりませんでした。ヘンリ・メルヴェール卿という人が圧倒的不利な裁判をひっくり返すのが主な筋立てですが、この人が持って回った言い回しをするので、それが滑稽で面白くも「あっ、くるぞ!」というのが、その態度で何となく察しがついて、その瞬間の高揚感といったら溜まりません。この人、次の場面で、ものすごい事実を指摘するんじゃないか。そういう期待を高めて、本当にものすごい事実を指摘する。巧みな演出が光ります。章題も素晴らしい。

 

中村融編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』

  2016年は中村融が編者の時間SFアンソロジー『時を生きる種族』と『時の娘』を読みました。どちらも流石に傑作選過ぎて、どれも素晴らしい短編でしたが、個人的な好みとしてはこちらのファンタスティックを選びたいです。不可逆にして強大な「時間」というものに挑戦すること、叛逆すること、それ故に生まれゆく凄絶な物語が巧みな手管で収斂された作品が揃っています。このほとんどが雑誌に載って長い間埋もれていたとは信じられません。

 

久生十蘭『墓地展望亭・ハムレット 他六篇』

  久生十蘭は面白いなあ! 全てが美しく精緻で、全てが面白いです。どの短編にも通底するのは、生と死の境界、自分と他人の境界、夢と現実の境界という主題です。何かと何かの「境界」を絶妙な感覚ですくいとり、物語として収束させています。人間がいかにして自分の存在を証明するか、逆に証明しないことでどのように生き抜くか。オカルティックなサスペンスや、心霊譚、欧州のめくるめく冒険活劇、探偵小説と、豊かな物語運びで、小説の魔術師と呼ばれていたのも納得です。舞台上演中の事故以降、平常時もハムレットとして生きる男の数奇な運命を語る「ハムレット」が特に好きでした。「墓地展望亭」「雲の小径」もお気に入り。十蘭もまだまだ読みたい作家です。

 

高原英理編『リテラリーゴシック・イン・ジャパン:文学的ゴシック作品選』

  2016年はアンソロジーを幾つか読んだのですが、これも文句なく素晴らしい、あまりにも素晴らしいアンソロジーです。ゴシックといえば私も吸血鬼だったりポオの諸作を思い浮かべますが、このアンソロジーは「不穏の文学」「人間の暗黒面への興味」という大まかな定義で捉え、ゴシック小説を書くという意識がなくとも、明らかにゴシックの様相を呈しているものを選び抜いたようです。当然作家で色合いは異なりますが、どこか共通する残酷さ、暗澹とした空気が蔓延っています。何より、作家のメンツが豪華で、同時にどの作家もタイトルの付け方が見事すぎて、目次を見ているだけで日が暮れそうな垂涎もののラインナップです。その中でも大変衝撃を受けたのは高橋睦郎の「第九の欠落を含む十の詩篇」で、言葉による世界創造の極北を見ました。凄すぎる。

 

連城三紀彦『顔のない肖像画

顔のない肖像画 (実業之日本社文庫)

顔のない肖像画 (実業之日本社文庫)

 

  やっぱりすごいよ、連城三紀彦。収録作全てが鮮やかな一撃と巧妙なプロットで魅せてくれて、こういった水準の驚きを短編集で用意できるのは本当に凄いことだと思います。相変わらず不倫浮気が多いのですが、描かれる物語のバリエーションは豊かで、読みやすくもあり、大満足の短編集でした。個人的には緊迫した空気に鉄槌を振り落すかのような倒叙ミステリ「夜のもうひとつの顔」がお気に入り。

 

パトリシア・ハイスミス『キャロル』

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)

 

  映画にもなって話題になりました。が、申し訳ありません、映画の方は見に行っておりません……何という不覚。しかし、こちらの原作も素晴らしく面白く、感動的な一作です。行為にも言葉にも想いにも、とにかく恋の狂おしい情熱が寄り添っています。人を愛することの幸福、肌を重ねるとき、世界には「わたし」と「あなた」たった二人だけだという幸福。もちろん、不安と戸惑いはいくらでも付き纏ってきますが、それでも、精神の中で瞬いた選択肢を思うままに、やりたいように選び取る。そういう熱量が出会いの瞬間から始まり、これからも続いていくのです。尊い。

 

 乙一他『メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション』

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション
 

  あの乙一と山白朝子と中田永一が揃い、さらに越前魔太郎も加わり、安達寛高が解説を添えるという何とも豪華な一冊です。乙一は私の読書のルーツに当たる人ですし、山白朝子は大学生時代に大変な衝撃を受けた作家ですから、そういうひとたちが揃うというのはそれだけでものすごいワクワクしました。内容も素晴らしい作品が揃っています。特にお気に入りなのは、乙一の「山羊座の友人」です。漫画にもなったようですがそちらは未読。乙一らしいささやかな非日常と理不尽さ、残酷さ、そこにミステリのエッセンスが見事に作用した傑作と思います。山白朝子「トランシーバー」も感動しましたし、いろいろな感情に溢れたアンソロジーです。やっぱりいいなあ。

 

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

 

  ソウヤーはいろいろなところで、とにかく面白いよ、という話を聞いていて、ようやっと昨年読んだのですが、確かに滅法面白くて震えました。読む手が止まりません。タイトルにもあるように、地球にエイリアンがやってきて、少しずつ地球人とも仲良くなっていく……というファーストコンタクトものです。しかし面白いのが、ようやく仲良くなってきた最中、殺人事件が起き、その犯人として異星人が最有力候補に挙がってしまうというところです。殺害現場には異星人の鱗が落ちていたからです。かくて異星人を被告とした、壮絶な法廷劇が繰り広げられます。法廷劇としての白熱した駆け引きもあり、しかし法廷の中で、少しずつ異星人の生態や文化、思想の輪郭に触れており、SFミステリとして抜群の面白さを誇っています。もう夢中で読みました。

 

山川方夫『親しい友人たち(山川方夫ミステリ傑作選)』

  山川方夫という作家も、2016年に初めて読んだ作家です。若くして亡くなった作家ということでしたが、本当にそれが惜しまれます。この傑作選に収められている作品には、とにかく「美学」が溢れています。冒頭と幕切れの美学。誰かの人生を謎と思惑で切り取って、柔らかにじわりと生命の奇妙さを浮上させる。推理の手管で魅せる物語はあまりありませんが、着地、とにかく着地と捻りが見事で、そこまで通り過ぎた冒頭から過程までの人々の営みがぐっと胸に迫ってくるような、本来の意味でのミステリ(神秘)の風景が広がっています。「お守り」などはオールタイムベスト級の短編ではないでしょうか。

 

倉橋由美子『大人のための怪奇掌篇』

大人のための怪奇掌篇 (宝島社文庫)

大人のための怪奇掌篇 (宝島社文庫)

 

  倉橋由美子というと『スミヤキストQの冒険』のように、ものすごい奇妙だったり思想的な団体が出てきたりというような作風を想像しがちだったのですが、この掌篇集は、起承転結もはっきりとした、極めてエンタメチックな作品集で驚かされました。どれも十ページ程度の作品なのですが、見事なオチや技巧が凝らしてあり、かなり面白いです。もちろん倉橋由美子らしい「不条理が不条理のままにされている」ような、心に妙な淀みと不穏さを残す幻想譚もあり、とても楽しく読みました。

 

ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』

南十字星共和国 (白水Uブックス)

南十字星共和国 (白水Uブックス)

 

  滋味溢れる秀作が並んだ残酷物語集。「夢」と「現実」を往来する陶酔感が素晴らしい。収録の各短編のほとんどが、誰かの語りか、あるいは何者かによる記録の体裁を取っています。つまり主観的な物語たちであり、だからこそ「夢」と「現実」の狭間の物語たりえているのでしょう。表題作は非常に面白かったです。南極大陸に栄えたユートピア「星の都」で、自分の欲望とはまったく真逆の行動に走ってしまう伝染病「自己撞着狂」が流行り出し、ただ理不尽に、ただ残酷に人々が発狂していく記録。ものすごく恐ろしかったです。外国の文学も面白いものが多くて、2017年ももっと手に取ってみたいです。

 

深緑野分『オーブランの少女』

オーブランの少女 (創元推理文庫)

オーブランの少女 (創元推理文庫)

 

  これは単行本刊行当時から気になっていたのですが、結局文庫化してしまいました。デビュー作とは思えない洗練された作品たちで、非常に面白かったです。美しさと恐怖が表裏一体のように張り付いて、主役の少女たちに宿っているような。愛おしくもあり、苦々しくもある、そういう短編集です。特にお気に入りなのがラストを飾る「氷の皇国」で、恐怖政治と人間の営みが悲しくドラマチックに演出された壮大なミステリです。どの短編も、時代だったり舞台となる国が異なるのですが、豊かな引き出しと、しかし似通った空気を醸し出せるあたり、確かな手つきが感じられてよかった。話題となった『戦場のコックたち』も読みたいです。

 

太宰治『ろまん燈籠』

ろまん燈籠 (新潮文庫)

ろまん燈籠 (新潮文庫)

 

  太宰はね、太宰はねえ……最高なんですよ……! 表題作「ろまん燈籠」は個性豊かな五人兄妹がリレー小説を行うというお話なんですが、太宰の描く家族が好きで好きで。自分の性格に真っ直ぐで、誰かを心の底から尊敬していて、美しいこと感動したことがあれば大いに笑い大いに涙を流す。この作品集は主に太平洋戦争期のものですが、表題作に限らず、敬虔な眼差しと言葉が込められていてはっとさせられます。悲哀はあれど陰鬱さはありません。愚直、ただ愚直なだけです。誰も自分の生活を誇りにして、慎ましく、けれど煌びやかに生きている。そこが素晴らしい。

 

村上春樹スプートニクの恋人

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

  村上春樹、やっぱり面白いですよね。物語がすっと心に沁みこんできます。村上春樹は料理とか家事の描写をよくお書きになっていますが、ああいったことをきちんと書いてくださると、なんとなく心の泉が満たされていく気分になります。この小説は、とある女性に恋した女性と、その友人の「ぼく」がメインとなって進行しますが、エピソードひとつひとつがとても不思議で面白かったです。恋愛小説でもあるんですが、登場人物が小説家になりたがっていて、そのためにときどき出てくる人物たちの創作に関する姿勢も興味深かったです。

 

森博嗣夢・出逢い・魔性

夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)

夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)

 

  森博嗣による、瀬在丸紅子を主人公にしたシリーズ「Vシリーズ」の第四話目です。2016年はこのVシリーズを全話読みました。森博嗣も読んでいて、心が洗われるような気持ちになる作家の一人です。Vシリーズはどれも面白かったですが、面白さでいえば、第四話目のこちらがとても気に入りました。紅子たち主人公の一行がテレビ番組に出演する、という筋立ても面白いですし、登場人物が車をかっ飛ばしたり、幽霊らしき人物による挿話もあって、事件と物語が唸りに唸るところが楽しい。ささやかな手掛かりから犯人を特定する紅子の推理も好きです。森博嗣はサプライズ精神の旺盛な作家で、騙しに騙されました。2017年は「四季シリーズ」に手を出したいですね。

 

麻耶雄嵩『螢』

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

 

  またやってくれましたよ、麻耶雄嵩。私にとって麻耶雄嵩という作家は、出会いが最悪だったために、未だに「ぐぬぬ」と身構えるのですが、やっぱりすごいことをしていると思います。確かに筋立て自体はシンプルなクローズドサークルものですが、シンプルが故にこの技巧が目立つのではないでしょうか? まさに本格ミステリでしょう。読んでいる間も居心地が悪く、きっとこういう答えなんでしょ? と思っていたら、予想外の角度から殴られ唖然。後半の推理がややくどいかなあ、と思いつつも、参りました、という気持ちの強い快作と思います。

 

 以上、20作品が2016年のベストです。

 

<2016年に読んだミステリだけのベスト>


カーター・ディクスン『ユダの窓』

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

サラ・ウォーターズ『荊の城』

皆川博子『開かせていただき光栄です』

津原泰水ルピナス探偵団の当惑』

都筑道夫『くらやみ砂絵』

青崎有吾『水族館の殺人』

麻耶雄嵩『螢』

森博嗣夢・出逢い・魔性

連城三紀彦『顔のない肖像画

 

<2016年に読んだミステリだけの短編ベスト>

 

連城三紀彦「夜のもうひとつの顔」

深緑野分「氷の皇国」

乙一山羊座の友人」

都筑道夫「天狗起し」

法月綸太郎「懐中電灯」

江戸川乱歩「石榴」

山川方夫「お守り」

 

<2016年短編ベスト>

乙一山羊座の友人」

笹沢佐保「赦免花は散った」

津原泰水「埋葬虫」

久生十蘭ハムレット

山川方夫「お守り」

倉橋由美子「夕顔」

連城三紀彦「夜のもうひとつの顔」

コードウェイナー・スミス「クラウン・タウンの死婦人」

ワレリイ・ブリューソフ「南十字星共和国」

ロバート・F・ヤング「真鍮の都」

 

 

 

2015年に読んだ本20選

あけましておめでとうございます。

 

いや、まさか一年間まったく更新しないとは自分でも思っていませんでした。

せっかくブログを作ったのになんだか味気ないですね。

来てくださっている方には申し訳ないことをしてしまいました。

今年も、もしかしたら更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。

というわけで、まずは2015年に読んだ本で特によかったなあと思うものを紹介します。

昨年は国内外を分けましたが、今年は一緒にします。ミステリやら文学やらジャンルはごちゃまぜです。

 

中井英夫『虚無への供物』

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

 

  今年は春先に日本探偵小説の三大奇書を読みました。さすがに質・量ともにボリュームが半端なものではなく、三大奇書を全て読み終えるのに一か月ほど掛かってしまいましたが、やはり凄まじい読書ができたなあと思います。その中でも、この『虚無への供物』はとてもよかった。物語の筋は一見するとよくあるミステリなのですが、事件が進んでいくたびにひたすら幻惑的な世界に突き進み、現実と非現実が入り組み、非現実が非現実へと上塗りされていく感覚がぴりぴりと肌に張り付くようでした。この巨大にして膨大な物語を全て読み解けたとは露にも思いませんが、この世界にすっかり魅了されてしまったことは確かです。

 

 山田風太郎『十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉』

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

 

  山田風太郎は面白いものを書かせたら日本で一番なんじゃないかと本気で思っている作家で、昨年も一作ベストに選んだのですが、今年もやはり選ばざるをえませんでした。山田風太郎が創造した名探偵・荊木歓喜を主役にした作品を集めた傑作選です。やっぱりですね、とんでもないのです。よくこんなことを考えて、こんな男を探偵役にして、こんな解決に至らしめることができるなと。特にこの傑作選に収録されている「帰去来殺人事件」と「十三角関係」などは出色でしょうか。奇々怪々な想像力、そんな想像力を物語に美しく似つかわしく圧縮してみせる手管。圧倒的です。

 

綾辻行人時計館の殺人

時計館の殺人<新装改訂版>(下) (講談社文庫)

時計館の殺人<新装改訂版>(下) (講談社文庫)

 

  私もやっぱり『十角館の殺人』には思い入れがある人間なのですが、それを越えてくる評判通りの傑作です。『霧越邸殺人事件』のすぐ後にこの作品を書いた、というのがまず驚きで、本当に凄いなあと感心しきりです。長い作品ではあるんですが、すらすら読めるリーダビリティは素晴らしいですし、設定もなんら難しいことはありません。本当につるつると物語を受け入れてしまう。けれどそれがすでに罠で、大いに堪能しました。

 

夢野久作ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

 
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

 

  奇書といったらやはりこれでしょうか。『虚無への供物』は奇妙といえば奇妙なのですが、こちらはもう奇妙奇天烈摩訶不思議ですよ。もう、まったく訳が分からない。論文が挿入されたり、頭のおかしい呪文のような文章が何十ページにも渡って続いたり、読んでいてくらくらしてきます。まさに魔術に掛かってしまったようでした。しかし、これがとても面白い。「意味不明なのが面白い」というのではなく、語られている内容も、物語の筋も、探偵小説的で極めて面白いのです。これもまた全てが読み解けたとは思いませんが、ひたすら楽しかったのだけは確かです。飲み込まれました。

 

連城三紀彦『宵待草夜情』

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

 

  やっぱり連城三紀彦は素晴らしいです。この短編集は入手困難だったものが昨年新装版となって復刊されたのですが、非常に濃密で、繊細で、強靭な驚きを持って読者を叩きのめす作品集というのは滅多にないでしょう。それをこんなクオリティで、一冊の短編集に幾つも収めてくれるのが連城三紀彦なのです。実はこれを読んだとき、ちょうど就職活動で遠方に電車で移動していたのですが、電車で読むべきではなかったなあと後悔しています。部屋で読んでいたら、間違いなく真実の鮮やかな一撃に驚き慄いて叫び散らしていたでしょう。電車ではそれができなかったので、もう、身を縮めて悶えるしかできませんでした。素晴らしい作品集です。

 

コレクション 戦争×文学(集英社)『イマジネーションの戦争 』

  集英社が2011年に刊行を開始し、すでに完結している叢書シリーズ「戦争と文学コレクション」の第五巻『イマジネーションの戦争』です。こちらはSFや幻想文学と言った、フィクションの世界から戦争を描いたものが収録されているアンソロジーで、芥川龍之介宮澤賢治、内田百閒、稲垣足穂といった文学の偉人から、三崎亜紀、星野智幸山本弘といった現代作家まで幅広く収められています。戦争と文学というと、なんだか教訓めいたものとか説教くさいとか、あとはやっぱり重くて暗い……という印象があると思うのですが、さすがにこの巻に収録のものは、確かに重くて暗いんですが、理屈抜きに面白いものが多く、読み応えがあります。ただ少しだけ立ち止まって、なぜこんなにも面白いのか、それを考えると、何か見えてくるものがある、そんな戦争アンソロジーです。

 

殊能将之『キマイラの新しい城』

キマイラの新しい城 (講談社文庫)

キマイラの新しい城 (講談社文庫)

 

  殊能将之石動戯作シリーズはこれで読み終えてしまいました。もう石動の物語を読むことはできないんだなあと思うと、寂しいです。本作は、殊能将之の作品で「面白さ」ということを考えると、私の中では最高のものでした。中世の騎士が現代のテーマパークの社長に憑りつき、舞台を掻き回していく様なんて最高ですね。一か所に留まってあれやこれや議論するのではなく、彼を中心に、東京一帯をひたすら動き回るこの目まぐるしさの楽しさといったら尋常じゃありません。ミステリ的な側面では『鏡の中は日曜日』の方が好みではあったのですが、さすが殊能先生、あるいはさすが石動といったところか、意外にも意外で、とにかく楽しかった。

 

マーガレット・ミラー『まるで天使のような』

まるで天使のような (創元推理文庫)
 

  この本は以前から高い値段がついていて、ツイッターなどでも、どなたかが買ったとか見つけたという報告をされると、いろいろな人が羨ましがるような一品で、今回の復刊は私も非常に楽しみにしていました。そんな評判に一寸も違わぬ傑作です。人探しから始まって、地味な調査が続いていくのですが、この調査の道中や人との絡みも非常に理知的な言い回しに風情があり、まったく飽きませんし、ひとつひとつのエピソードの配置も絶妙で、非常に面白かった。宗教が話の中心を占めますが、その異様な感覚もとにかく魅力的で、そのうえサプライズもあり、という贅沢な作品でした。これが初めて読んだミラーだったのですが、ぜひ他の作品も読んでみたいです。

 

 伊藤計劃虐殺器官

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

 

  2015年は計劃三作品映画化、とのことだったので読みましたが、『虐殺器官』は会社の事情で延期という事態になってしまいました。残念です。楽しみにしています。さて、本作ですがやはり伊藤計劃は凄いなあと思います。この作品を読む前に円城塔が書いた『屍者の帝国』を読んでいたのですが、それと比較すると、計劃の語りは本当に柔らかくって、穏やかで、そういった物語を受け取ることに苦労しません。この作品の一人称が「ぼく」というのも印象的でした。物語は戦争を主題にしていますが、スケールの大きさよりも、もっと内側に、精神に、「ぼく」という人間と、それに纏わるものという規模に注力されているような部分がとてもよかった。映画化に際して『ハーモニー』も二年ぶりに再読しました。『ハーモニー』の方が好みで、こちらはもうオールタイムベスト級に好きなのですが、どちらもとても面白かったです。

 

倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』

  倉橋由美子も少しずつ読み進めているのですが、現時点ではこちらがベストです。もう、何と言ったらいいのかわかりません。それは、あれもこれも面白くて、面白いところを説明したらきりがない! ……という意味ではなく、こんなに意味が分からなくて、本当に変な小説だったのに、どうして面白かったのだろう、という妙な感覚が胸に張り付いてとれないからです。ある意味奇書と言ってもいいでしょう。島に潜入したQという男が、とにかくいろいろな人たちに出会い、変な体験をする。それだけのお話なのですが、読んでいる私も途轍もない悪夢を見たような気分です。どいつもこいつも心底気持ち悪い。でも、そこが最高。そんな小説でした。

 

円居挽河原町ルヴォワール』

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

 

  京都の私的裁判を主題に置いたシリーズの第四弾でシリーズ完結編。この巻からお読みになっても意味がわからないと思いますので、読まれる場合はぜひ第一弾『丸太町ルヴォワール』からお読みください。さて、この完結編はとても感動しました。衝撃的な展開、凄まじいどんでん返しと、様々なサプライズで楽しませてくれたシリーズでしたが、まさにこのシリーズにふさわしいラストを飾ってくれたと思います。感無量です。

 

大江健三郎『死者の奢り・飼育』

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

 

  大江健三郎の初期短編集です。さすがノーベル賞作家といいますか、もう本当にびっくりしました。堅苦しい文章ではなく、本当に瑞々しい文章をお書きになるのです。けれど、非常に生々しい。死体だったり病室だったり暗い部屋だったり、そういった何かが充満しているような空間がたくさん出てくるのですが、それを含め、そこに纏わる人々も含め、なんだか「匂い」が文章の外へと沸き立ってくるような、そんな感触なのです。とても衝撃的でした。

 

 ジェイムズ・ヤッフェ『ママは何でも知っている』

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  以前から安楽椅子探偵ものの最高峰、とお聞きしていたので読みたかったのです。この度復刊ということで読みました。これは素晴らしかった。探偵役のブロンクスのママは、ちょっとだけ小賢しい感じのママさんなんですが、推理となるとこの切れ味が強靭なのです。キレッキレです。軽妙な会話劇の中に、惚れ惚れするパズル。話数が進む度に、少しずつ哀愁が湧いてくるような味わい深さも見事です。

 

栗本薫『絃の聖域』

新装版 絃の聖域 (講談社文庫)

新装版 絃の聖域 (講談社文庫)

 

  栗本薫の創造した探偵・伊集院大介が初めて登場する長編だそうです。この作品で初めて栗本薫を読みました。傑作です。ある一家と、一家に纏わる人々の泥沼な関係の中に起こる殺人――という極めてオーソドックスな筋立てで、実際物語展開もそこまで激しいわけではないのですが、「邦楽」という芸を嗜む一家の描き方が非常に印象的です。芸を目指し、芸を極める人間の意志や想念が一気に収束するようなラストには、思わず震えてしまいました。タイトルにもある「絃」、すなわち「糸」が、一族の系譜という大いなる糸、人間と人間の関係を結ぶ糸、犯罪という細い綱渡りのような糸、そしてもちろん楽器の絃――というように、いろいろなモチーフとして作品の随所に張り巡らされているのも見事だと思います。

 

米澤穂信秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

 
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

 

  2015年は結構米澤穂信を読んだように思ったのですが、意外とそんなに読んでいませんでした。今回選んだのは〈小市民〉シリーズの、現時点での最新作です。小鳩くんと小佐内さんの関係に馴染んだ読者からすればなかなかに意表を突く前作のエンドから、まさかこうくるかという新しい関係が描かれ、また新たな事件が描かれます。大きな事件があり、その最中に小さな謎が描かれるのですが、その小さなものを着実に解いていく部分もキレがあって楽しいですし、大きな事件の方は真相自体は見えやすいとはいえ、やっぱりその「向こう」に潜んでいたものをぎりぎりまで隠して最後に引きずり出す、その構成に痺れますね。なんだかこう、ガッツポーズしてしまいました。

 

村上龍コインロッカー・ベイビーズ

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

 

  本の存在自体は知っていながら、まあ読むことはないだろうと思っていた作品です。ところがいろいろあって読むことになり、村上龍も初めて読んだのですが、これは凄い作品でした。もう何から何まで凄い。グロテスクだし、気色の悪いものや胸糞の悪い展開も含めて、生理的な勢いが爆発的な力を持って攻めてきます。そういう気持ちにさせてくれるというのがまず凄い。しかし、終盤、特にラストのとある人物の決定的な、宣言にも似たある一言が強烈な印象で最高だったと思います。

 

泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

 

  やっぱり亜愛一郎シリーズは凄いですね。本当にマジックを見ているかのような、奇術で魅了するようなミステリ短編が並んでいます。どれもクオリティが高く、印象に残っています。どれもベスト級ですが、私はこの中だと「藁の猫」という短編が特に好きでした。次の巻『逃亡』も、すでに持っていると思っていたんですが、まさかの『転倒』をもう一冊持っていたという。初めて同じ本を二冊買ってしまいました。

 

安部公房『他人の顔』

他人の顔 (新潮文庫)

他人の顔 (新潮文庫)

 

  安部公房は今年『砂の女』とこの作品を読みましたが、この作家はこれからもたくさん読んでいきたいな、と強く思いました。どちらも非常に優れた作品で素晴らしかったのですが、こちらの方を今回は選ぼうかなと。大火傷で顔を潰してしまった男が仮面を作って、それにまつわるエピソードが、書き残されたノートという体裁で語られていきます。読んでいてぐさぐさと突き刺さるものがたくさんありましたし、仮面という物体がもう物でないような描き方に暴走していくような様子が強烈でした。

 

エドマンド・クリスピン『列車に御用心』

列車に御用心 (論創海外ミステリ)

列車に御用心 (論創海外ミステリ)

 

  ジャーヴァス・フェン教授が活躍するミステリ短編集です。どれも短い話でまとめられていますが、驚くほどに端正で、巧さがそこかしこに見え透いている短編集です。素敵なトリックとか目を見張るような大胆さのある仕掛けがあるわけではないのですが、手掛りの配置や論理の導き方に切れ味があり、堪能しました。ベストは「高速発射」という短編で、これも本当に地味な短編ですが、「鮮やか」という言葉はこの短編のためにあるのではないかと思うほど鮮やかな推理が披露されています。

 

太宰治パンドラの匣

パンドラの匣 (新潮文庫)

パンドラの匣 (新潮文庫)

 

  太宰、凄いぞ太宰。そんなこと今更知ったのか、と言われるのも仕方がない。『人間失格』と『晩年』だけ読んだまま放置していたのがもったいないほど面白いです。この本には「正義と微笑」「パンドラの匣」という中編が二編収められています。どちらも紛うことなき傑作です。一応、この二作は後期の作品(自殺するちょっと手前)のはずなんですが、非常に爽やかで、生きていくことの眩しさが満ち溢れたような、そんな作品になっています。もう、ところどころにふっと浮き出る感情とか言葉がいちいち尊いし、ハッとさせられて……感動しました。素晴らしい作家です。

 

 以上20作品でした。

 ここからは、長々と語りはしませんが、今年読んだ短編から特によかったなあと思うものを書き出してみたいと思います。今年はあんまり本が読めなくて、かつ短編集もそこまで手を出せなかったので、意外とベストはすんなりと決まりました。

 

<ミステリ短編10選>


山田風太郎「帰去来殺人事件」
連城三紀彦「花虐の賦」
泡坂妻夫「藁の猫」
森博嗣「小鳥の恩返し」
青崎有吾「吸血鬼」
梓崎優「スプリング・ハズ・カム」
法月綸太郎「錯乱のシランクス」
トマス・フラナガン「獅子のたてがみ」
エドマンド・クリスピン「高速発射」
ジェイムズ・ヤッフェ「ママは何でも知っている」

 

<非ミステリ短編10選>

谷崎潤一郎「蘆苅」
大江健三郎「飼育」
岡本かの子「小町の芍薬」
倉橋由美子「蛇」
吉本ばなな「白河夜船」
高橋たか子「人形愛」
秋山瑞人「おれはミサイル」
エドガー・アラン・ポー「赤死病の仮面」
ヘレン・マクロイ「風のない場所」
セアラ・オーン・ジュエット「マーサの愛しい女主人」

 

今年読んだ本10選(海外編)

 今年読んだ本のうち、海外で好きなものを挙げていきます。

 一つ前の記事では国内編をやっています。

 

 

 というわけで、海外編です。

 

エラリー・クイーン『ギリシア棺の謎』

  エラリー・クイーンは今年『Xの悲劇』『ギリシア棺の謎』『エジプト十字架の謎』を読みましたが、どれも全盛期だけあってとても面白かったです。中でもこの『ギリシア棺』はぶっちぎりで好きでした。有栖川の『双頭の悪魔』の時にも書きましたが、これくらい推理推理推理! という感じだととにかく楽しい。常にニヤニヤしながら読んでいた気がします。偉そうに高説垂れるエラリーくんが敗北するものいいですし、敗北したからこそ推理と論理が収斂されていくのです。今のところクイーンで一番好きですね。

アントニイ・バークリー『第二の銃声』

  とにかく熱い、手に汗握る激熱パズルです。いやこれはパズラーじゃないだろ、と言われそうですけれど、こうでこうでこうだからこうなのだ、が積み重なりまくる後半の推理がよかった。殺人劇の最中に殺人が起こるという単純な構成ながら綿密なプロット、登場人物も個性的で、語り手のピンカートンが面白いのです。どんでん返しもかなり上手に決まっているし、シェリンガムのユーモアな推理に大満足。バークリーはこれで二冊目でしたが、やはり非凡な書き手だと確信しました。

T・S・ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

 

  心理学者ポジオリ教授を探偵役に据えた短編集。カリブ諸島など、どこか民族的で宗教的な空気の漂う場所での異色な展開が光ります。何よりこのポジオリ教授がとてもいいキャラクターで、極めて冷静で理知的ですが、怒ったりもするし、目立ちたくないとは思いつつも虚栄心もあって、巻き込まれては事件解決へ向かうという魅力的な探偵です。伏線の利いた堅実なミステリもありますが、やはり目につくのは民族的で哲学的な土台。特に最終話「ベナレスへの道」は「探偵小説の底が抜ける」とまで評されたあまりに衝撃的な結末です。私も思わず叫んでしまいました。これを実現させる説得力と、ホワイダニット。推理がこんな境地にまで到達するのか、というとにかく衝撃的な短編集です。

 シオドア・スタージョン『一角獣・多角獣』

一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)

一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)

 

  シオドア・スタージョンはこの本で初めて読みましたが、これも宮野村子のようにとても素敵な出会いだったと思います。一発で惚れてしまいました。それくらい素晴らしい短編集です。元々はこの本に収録されている「死ね、名演奏家、死ね」という短編が、ツイッターのミステリ短編オールタイムベストにランクインしたのがきっかけでした。SF作家ですが、ミステリ的興味も十分。SF要素も突き抜けて難しくない、浮遊感と切なさが漂っています。「死ね、名演奏家、死ね」はタイトルのインパクトも強いですが、普通の殺人からさらにもう一段階上にシフトした、まさに「姿なきを殺す」殺人の何とも異様な音楽ミステリ。変則フーダニットとしても機能しているし、結末も見事すぎて脱帽です。収録作がどれもベスト級で、ひとつひとつ唸りながら読みました。もっと読みたいです。

 シャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』

毒薬の小壜 (ハヤカワ・ミステリ文庫 46-1)

毒薬の小壜 (ハヤカワ・ミステリ文庫 46-1)

 

  シャーロット・アームストロングは以前からとても気になっていた作家です。というのも、私の一番好きな作家の城平京が何度も言及している作家だったからです。手に入りにくい作品が多く、私も機会がなかったのですが、今年になってやっと読むことが出来ました。こちらの一作は文春が行った2012年版ミステリーオールタイムベストでも上位100位ということで、やはり傑作。探偵役が推理する、というような形式ではなく、毒薬を巡るサスペンスです。前半の幸せな雰囲気が少しずつ翳りを見せ始めた時は、もしかしたら幸福に終わらないのではないかなとか、悲しい結末に終わるのかなとすごく不安でした。けれど一人ひとり仲間に加わっていく登場人物たちは皆とてもいい人で、善意に満ちていて、人間の可能性や運命についてとても素敵な考え方をしていました。そうして迎えたエンディングはとても晴れ晴れとしていて、心から感動しました。

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

 

  アイザック・アシモフのSFミステリ。宇宙人殺害事件という題材もそうですが、ここまでSF的なガジェットや世界観とミステリが合致した作品だとは。素晴らしいです。地球人の刑事ベイリとロボットのダニールのコンビも個性的だったし、やはりロボット三原則とそれに準じた流麗なロジックです。作中ではいくつか推理が行われますが、そのどれもが未来社会の問題やロボットに結びついている。展開も熱くて面白すぎました。解決も美しいですし、様々な議論の行方など、SFとしてもミステリとしても一級品で、「SFミステリ」という言葉を体現したような作品でした。

パーシヴァル・ワイルド『検死審問-インクエスト-』

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

 

  どうも私は熱い展開が好きなようですが、この作品も非常に熱いです。高名な女流作家の家で起きた殺人を中心とした法廷ものです。最初は人数の多さと審問制度になかなか馴染めませんでしたが、中盤以降の面白さは物語に没入せざるをえないものがあります。誰が、どうやって、どうして、というような三点だけではなく、様々な部分に遊びとサプライズが設けられ、二転三転する法廷劇はとても熱かった。

クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

 

  何と言っても今年はクリスチアナ・ブランドです。スタージョンも幸福でしたが、今年はブランドの面白さに染まっていました。黄金期のパズラーということで山口雅也も絶賛しているのは以前から知っていました。しかしここまで凄腕とは……『このジェゼベルの死』はとにかくトリックが凄まじいです。内田百閒はよく怖い場面で「水を被ったような……」という風に表現しますけれど、この作品のトリックはまさに読者をひたすらぞっとさせる、一撃必殺のトリックです。それだけでなく、容疑者がとにかく俺がやったんだ、と自白しまくるという自白合戦など、よくここまで面白い要素詰め込めるなあ、という充実ぶり。すごい作家です。

クリスチアナ・ブランド『招かれざる客たちのビュッフェ』

招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)

招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)

 

  またまたブランドです。こちらは短編集ですが、何とも贅沢で珠玉の短編集です。倒叙もの、探偵、本格推理、密室殺人、法廷ものなど、バラエティに富んでいて、そのどれもが隙なく高レベルで揃っています。特に驚嘆したのは「ジェミニー・クリケット事件」で、密室殺人に切れ味の鋭すぎる推理が最高でした。多重推理の趣向がとても好みなのです。他にも「婚姻飛翔」「カップの中の毒」「スコットランドの姪」「ジャケット」「メリーゴーラウンド」「この家に祝福あれ」など、印象深い短編ばかりです。これを並べられるっていうのは、ホントに素晴らしい作家だと思いました。今年はブランドは長編で『緑は危険』も読みましたけれど、あれもすごく良くて、すごいすごいと馬鹿みたいに唸り続けています。

 アーサー・コナン・ドイルシャーロック・ホームズの冒険

  これも今更ですが、これが初ホームズです。幼い頃より名探偵コナンは好きですし、特に劇場版のベイカー街が一番好きだというのに情けない。でも、やっとこさ読みましたが、予想以上に面白かった。さすが、というのも失礼なほど凄いですね。事件と謎を魅力的に提示しようという気概がまずいいし、ホームズも頭脳は明晰ですが行動的で、まさに『冒険』という感じがよかったです。ホワイの骨頂「赤毛組合」や人間消失「くちびるのねじれた男」、敢えて被害者になりに行くスリリングな密室殺人「まだらの紐」、事件の構造解体が流麗な「緑柱石の宝冠」など。しかしながらどれもベスト級です。ドイルはやはり偉大ですね。

 

今年読んだ本10選(国内編)

 今年はあまりこちらを更新できないまま一年が終わってしまいそうです。

 というわけで、年末ですから、今年読んだ本で好きなものを、国内10冊、海外10冊くらいで挙げて行こうと思います。数えてみたら、今年は小説を139冊読んだようです。上半期の方がたくさん読めたのですが、8月以降はあまり小説が読めず、どちらかといえば漫画を読んでいた気がします。

 

宮野村子『宮野村子探偵小説選Ⅰ・Ⅱ』

宮野村子探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

宮野村子探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

 
宮野村子探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

宮野村子探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

 

  論創社から出ている<論創ミステリ叢書>の中の二冊から、戦後の女流探偵小説家の草分けとなった作家、宮野村子の探偵小説を集めたものです。今年初めて読んだ作家では、この宮野村子との出会いが一番印象的でした。宮野村子は「文学派」といって、木々高太郎を師事し、文学としての探偵小説を志しました。「生きた人間を書きたい」「人一人を殺すのに千枚書いても構わない」といった言葉からも、宮野村子がただの遊戯的なミステリではなく、文学的なものを目指していたことが窺えます。その結果生まれた作品がこの二冊に収録されていますが、とても素晴らしかった。

 編者の日下三蔵も言うように、宮野村子は決して、斬新なトリックや驚きのミステリ的技巧を披露しているわけではないのです。しかし、物語に宿る登場人物たちが、どのような交流を経て、いかに鬼気迫る犯罪を為したかというような人間と犯罪の物語を、堅実な心理描写で練り上げています。物語と犯罪の精密な結びつき具合が麗しいのです。物語はどこか運命めいていて、カタストロフに至るまでロマンチックですが、人工物くささがまったくない。筆力が圧倒的です。

 もちろん、「文学派」となると推理はおざなりなのかというと決してそうではなく、「八人目の男」などの超絶的なホワイダニットや「匂いのある夢」のとち狂った真相、「紫苑屋敷の謎」のような細やかな論拠からの推理など、本格として読める部分もたくさんあります。特に驚いたのは第一巻の「斑の消えた犬」というもので、少女探偵がクイーンばりの流麗な論理でばっさばっさと事件を切り捨て、事件がトリッキーに二転三転する展開など、この一作はオールタイムベスト級の短編ではないかと思ったり。男女の愛憎、書簡体小説など、バラエティにも富んでいます。とても面白い作家です。これほどの作家が広く読まれていないのはもったいないと思います。

有栖川有栖『双頭の悪魔』

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

 

  今更学生アリスシリーズかよ、と思われそうですが、学生アリスは今年になって読んだのです。やはり素晴らしいと思いますが、お気に入りはこの『双頭の悪魔』です。『孤島パズル』もとても好きです。『双頭の悪魔』は三回「読者への挑戦状」が挿入されますが、それだけ自信があったのでしょう。推理の力、論理の力。そういったものがこれほどまでに犯罪を隅々まで解明してしまうという、一種の恐ろしさのようなものまで感じました。何より、読んでいるのが楽しすぎました。

連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

 

  上に出ている『夜よ鼠たちのために』はつい最近宝島社で復刊したもので、私が読んだのはずっと以前に新潮文庫で出たものです。連城三紀彦は昨年亡くなってしまいましたが、非常に偉大な作家です。『夜よ鼠たちのために』はその中でも屈指の短編集で、誘拐ミステリの傑作「過去からの声」などがお気に入りです。普通はそんなアイデア考え付くはずがないのですが、どうしてこのような発想に至るのか。本当の天才だったなあと、亡くなって一年経った今でも思います。もっと読みたい。

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

 

  前作『七つの海を照らす星』の読了後でなければ、この面白さは半減してしまいます。学校での転落事件について捜査していく、という割とオーソドックスなミステリですが、前作に登場した「施設」などの話や設定がそのまま続いているシリーズものですので、やはり二作続けて読みましょう。転落事件の捜査の中で、いろいろな推理に行き当たりますが、最終的な真相は壮絶。意識が飛びました。七河迦南は寡作な作家で、この方の作品で本として出ているものは全て読んでしまいました。新刊が出ることを心待ちにしています。

野崎まど『2』

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

 

  野崎まどはこの『2』以前に5冊本を出していて、その全ての続編であり、野崎まどの集大成がこの『2』です。ですから、この『2』以前の5冊を読了してからこの本を読みましょう。この『2』という作品は創作の極致です。物語は演劇や映画に関わる人間が、この世で一番面白い映画を撮ろうといろいろな活動をする物語です。この一見普通なあらすじ、青春ものかな、と思わせますが、この物語の行き着く先はこの世の次元のものではありませんでした。恐ろしい作品です。ぶったまげました。第一作の『[映]アムリタ』はデビュー作のはずですけど、いったいいつからこの話を考えていたのか非常に気になります……『Know』は読めていないので、また近いうちに読みたいです。

島田荘司『斜め屋敷の犯罪』

斜め屋敷の犯罪 御手洗潔 (講談社文庫)
 

  今更御手洗か、とまたもや言われそうですが、島田荘司も全然読めていないのです。ですから、やっぱりこうして作品に触れるとすごくて簡単にベスト入りしてしまいます。この作品は、綾辻行人をして「一生忘れられないトリック」と言わしめた、かなり奇想的なトリックが披露されます。私も驚きで声を上げました。いやあ、これはすごいです。今年は御手洗ものでは『異邦の騎士』も傑作でしたし、島荘はやはり読んでいかなきゃなあと思いました。でも、斜め屋敷のこの衝撃は忘れないと思います。

山田風太郎『幻燈辻馬車』

幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)

幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)

 
山田風太郎明治小説全集 (4) 幻燈辻馬車 下 (ちくま文庫)

山田風太郎明治小説全集 (4) 幻燈辻馬車 下 (ちくま文庫)

 

  山田風太郎はとても好きな作家で、特に明治を舞台にした「明治もの」はハズレがありませんね。この『幻燈辻馬車』も、おじいさんと幼い女の子が主人公で、明治の騒乱に巻き込まれていくんですが、幽霊が出てきたり、やはり山風らしく探偵小説的な部分があってかなり面白かったです。山風は「明治は暗黒の時代」と語るにふさわしい血みどろの展開もありますが、熱さもあり、切なさもあり、面白いものを書かせたら日本一だと思います。

 大島真寿美ピエタ

ピエタ (ポプラ文庫 日本文学)

ピエタ (ポプラ文庫 日本文学)

 

  この作品は高校時代に単行本が出て、読みたいなあと思っていたんですが読まずに引きずっており、今年になって文庫本が出て「これは!」とすぐに買って読みました。あんまり文章を読んで泣くことはなくて、泣けるなあっていうのは感動したみたいな言い方でしか使わなかったんですが、文章で涙が出たのはこの本が久しぶりだと思います。ものすごくよかった。まったく気にならない部分がないというわけでもなくて、あの登場人物がもっと活躍してほしかったな、というようなものはあるのですが、そんなものはどうでもいいくらい美しい話でした。ヴェネツィアと、ヴィヴァルディと、その教え子たちのお話です。音楽の話は好きですし、ヴィヴァルディが残したものの行方のわからなくなった詩を探すというところもちょっとミステリチックでいいですね。その詩がとても染み入りました。すごくよい本です。

舞城王太郎熊の場所

熊の場所 (講談社文庫)

熊の場所 (講談社文庫)

 

  舞城王太郎は私にとって「くっそー、好きって言いたくない……でも悔しいけど面白い……」みたいな感じの作家で、その通り悔しいけど面白いですね。この本には短編が三作収録されていますが、どれも面白く読めました。これだけマシンガンみたいな一人称をぶっ放しておいて主述が乱れないとかすげえ。「ピコーン!」などはミステリとしても通用しますが、こういった話に弱いというか、このお話はめちゃくちゃ下品なんです。でも、幸せな空気を出すのがうまくてやられました。今年は『好き好き大好き超愛してる。』とか、舞城が原作の『バイオーグ・トリニティ』なども読みましたが、どっちもとても面白かったです。舞城の本はちまちま集めていて、それなりに数も揃ってきた頃に一気に読もうと思っています。

三津田信三『幽女の如き怨むもの』

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)

 

  刀城言耶シリーズ第六弾。長編です。私は刀城言耶がとても好きで、かなりいいキャラクターをしていると思っています。やる時はやるのもかっこいいですね。この作品では刀城言耶はほとんど登場せず、終盤でいきなり現れて、彼の推理を披露するのみに留まっています。それがまたかっこいいですが、探偵が物語を作るということを再確認しました。それまでは、遊郭の不思議な出来事の描写が綿々と続いているのです。それが不可解なまま終わってしまう。それを刀城言耶は解釈として物語に直してやる。本格ミステリクラブの法月綸太郎が「謎を謎たらしめるたくらみを、論理のフィルターによって漉き取り、物語に送り返す」というものを本格ミステリの妙味だと語りました*1。まさしくその通りです。この物語も、刀城言耶によってそうした物語に返還されるべきものでした。ですから、物語それ自体に深く関わらず、終盤に現れるのでしょう。遊郭の描写なども凄まじく、勉強したのだなあと感心しました。

 

 以上が10選ですが、他のお気に入りもいくつか。

 

三津田信三『生霊の如き重るもの』

 刀城言耶シリーズです。短編集ですが、やっぱり面白かった。刀城言耶という探偵が好きです。『幽女』は衝撃がとても大きかったし、『生霊』は短編集ながらかなり贅沢なトリックと推理が楽しめました。

小野不由美『東亰異聞』

 明治時代の話が好きなのかも。これも明治の東亰という都市で魑魅魍魎を相手取った優美なミステリです。精密な構成と、超絶的なホワイダニット

飛浩隆『象られた力』

 「デュオ」という短編がとにかく完璧で、最高です。

深水黎一郎『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ』

 芸術とミステリを絡めた芸術探偵シリーズです。まず、タイトルがめちゃくちゃかっこいいですね。このお話はオペラの劇中に殺人が起こる「開かれた密室」ですが、真相も意表をついてよかったし、何よりオペラの薀蓄が面白く、それとミステリ的な趣が上手に合致するのが巧いです。芸術探偵では今年は『ジークフリートの剣』も読みましたが、あちらもよくできているなあと思います。ただあまり主人公が好きじゃなかったので、個人的には『トスカの接吻』のが好きです。

江戸川乱歩『陰獣』「目羅博士の不思議な犯罪」

 前者は乱歩渾身の本格推理で、事件がまったく逆のベクトルに反転したりするのは気持ちがいいし、乱歩お得意の妖しく奇怪な世界と本格が混じるとここまですごいのかあ、というような傑作です。後者はやっぱり乱歩世界。驚きのハウダニットもそうですが、語りがとてもよかったです。

内田百閒『冥途・旅順入城式』

 この短編集は本当に短い、10ページもないような話が50話ほど収録されているもので、10月の頭から少しずつ、毎日寝る前に読み進めていて、少し前に読み終えました。筋もない、かなり不思議な作品群です。けれど、とても怖い。染み入るような、不気味で、神秘的で、幻想の世界です。

森博嗣幻惑の死と使途』『数奇にして模型

 今年は『すべてがFになる』が実写ドラマ化しましたね。実はこのシリーズは数年前から半年に一作くらいのペースで読み進めていたんです。それから6作目くらいまで読んでいた頃に実写の告知が出て、急いで読もうと、今年の夏頃にシリーズを読破してしまいました。このシリーズは本当に大好きなシリーズで、読み終えるのがとても悲しかったです。この『数奇にして模型』は9作目ですが、シリーズ前半ではまだまだわがままだった西之園萌絵もかなり大人びていて、むしろ犀川先生がとても間抜けで面白い巻なんです。『幻惑~』はかなり大がかりなネタと切れ味の鋭い論理が味わえてかなり楽しかったですね。

 

 今年の国内はとにかく宮野村子との出会いが大きかったですね。一番手に取りやすいのが叢書で二巻合わせて6000円、というのが気軽に手に取りにくくてネックか。文庫になって広く読まれるべき作家だと思います。とりあえず、名前を知っていただきたいですね。こんなに素晴らしい作家、埋もれてはもったいないです。

 国内はこんな感じです。

 次の記事では海外の方を。

 

初めまして。

 

別にブログがあるのですが、本の話がしたくてこちらに新しく作りました。

有理数と申します。

ミステリを中心に、文学その他、本について思ったことや感じたことを書いていこうと思います。

どうぞよろしくお願いします。