有理数のブログ

本や趣味について書いていくブログです。

2015年に読んだ本20選

あけましておめでとうございます。

 

いや、まさか一年間まったく更新しないとは自分でも思っていませんでした。

せっかくブログを作ったのになんだか味気ないですね。

来てくださっている方には申し訳ないことをしてしまいました。

今年も、もしかしたら更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。

というわけで、まずは2015年に読んだ本で特によかったなあと思うものを紹介します。

昨年は国内外を分けましたが、今年は一緒にします。ミステリやら文学やらジャンルはごちゃまぜです。

 

中井英夫『虚無への供物』

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

 

  今年は春先に日本探偵小説の三大奇書を読みました。さすがに質・量ともにボリュームが半端なものではなく、三大奇書を全て読み終えるのに一か月ほど掛かってしまいましたが、やはり凄まじい読書ができたなあと思います。その中でも、この『虚無への供物』はとてもよかった。物語の筋は一見するとよくあるミステリなのですが、事件が進んでいくたびにひたすら幻惑的な世界に突き進み、現実と非現実が入り組み、非現実が非現実へと上塗りされていく感覚がぴりぴりと肌に張り付くようでした。この巨大にして膨大な物語を全て読み解けたとは露にも思いませんが、この世界にすっかり魅了されてしまったことは確かです。

 

 山田風太郎『十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉』

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

 

  山田風太郎は面白いものを書かせたら日本で一番なんじゃないかと本気で思っている作家で、昨年も一作ベストに選んだのですが、今年もやはり選ばざるをえませんでした。山田風太郎が創造した名探偵・荊木歓喜を主役にした作品を集めた傑作選です。やっぱりですね、とんでもないのです。よくこんなことを考えて、こんな男を探偵役にして、こんな解決に至らしめることができるなと。特にこの傑作選に収録されている「帰去来殺人事件」と「十三角関係」などは出色でしょうか。奇々怪々な想像力、そんな想像力を物語に美しく似つかわしく圧縮してみせる手管。圧倒的です。

 

綾辻行人時計館の殺人

時計館の殺人<新装改訂版>(下) (講談社文庫)

時計館の殺人<新装改訂版>(下) (講談社文庫)

 

  私もやっぱり『十角館の殺人』には思い入れがある人間なのですが、それを越えてくる評判通りの傑作です。『霧越邸殺人事件』のすぐ後にこの作品を書いた、というのがまず驚きで、本当に凄いなあと感心しきりです。長い作品ではあるんですが、すらすら読めるリーダビリティは素晴らしいですし、設定もなんら難しいことはありません。本当につるつると物語を受け入れてしまう。けれどそれがすでに罠で、大いに堪能しました。

 

夢野久作ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

 
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

 

  奇書といったらやはりこれでしょうか。『虚無への供物』は奇妙といえば奇妙なのですが、こちらはもう奇妙奇天烈摩訶不思議ですよ。もう、まったく訳が分からない。論文が挿入されたり、頭のおかしい呪文のような文章が何十ページにも渡って続いたり、読んでいてくらくらしてきます。まさに魔術に掛かってしまったようでした。しかし、これがとても面白い。「意味不明なのが面白い」というのではなく、語られている内容も、物語の筋も、探偵小説的で極めて面白いのです。これもまた全てが読み解けたとは思いませんが、ひたすら楽しかったのだけは確かです。飲み込まれました。

 

連城三紀彦『宵待草夜情』

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫 れ 1-10)

 

  やっぱり連城三紀彦は素晴らしいです。この短編集は入手困難だったものが昨年新装版となって復刊されたのですが、非常に濃密で、繊細で、強靭な驚きを持って読者を叩きのめす作品集というのは滅多にないでしょう。それをこんなクオリティで、一冊の短編集に幾つも収めてくれるのが連城三紀彦なのです。実はこれを読んだとき、ちょうど就職活動で遠方に電車で移動していたのですが、電車で読むべきではなかったなあと後悔しています。部屋で読んでいたら、間違いなく真実の鮮やかな一撃に驚き慄いて叫び散らしていたでしょう。電車ではそれができなかったので、もう、身を縮めて悶えるしかできませんでした。素晴らしい作品集です。

 

コレクション 戦争×文学(集英社)『イマジネーションの戦争 』

  集英社が2011年に刊行を開始し、すでに完結している叢書シリーズ「戦争と文学コレクション」の第五巻『イマジネーションの戦争』です。こちらはSFや幻想文学と言った、フィクションの世界から戦争を描いたものが収録されているアンソロジーで、芥川龍之介宮澤賢治、内田百閒、稲垣足穂といった文学の偉人から、三崎亜紀、星野智幸山本弘といった現代作家まで幅広く収められています。戦争と文学というと、なんだか教訓めいたものとか説教くさいとか、あとはやっぱり重くて暗い……という印象があると思うのですが、さすがにこの巻に収録のものは、確かに重くて暗いんですが、理屈抜きに面白いものが多く、読み応えがあります。ただ少しだけ立ち止まって、なぜこんなにも面白いのか、それを考えると、何か見えてくるものがある、そんな戦争アンソロジーです。

 

殊能将之『キマイラの新しい城』

キマイラの新しい城 (講談社文庫)

キマイラの新しい城 (講談社文庫)

 

  殊能将之石動戯作シリーズはこれで読み終えてしまいました。もう石動の物語を読むことはできないんだなあと思うと、寂しいです。本作は、殊能将之の作品で「面白さ」ということを考えると、私の中では最高のものでした。中世の騎士が現代のテーマパークの社長に憑りつき、舞台を掻き回していく様なんて最高ですね。一か所に留まってあれやこれや議論するのではなく、彼を中心に、東京一帯をひたすら動き回るこの目まぐるしさの楽しさといったら尋常じゃありません。ミステリ的な側面では『鏡の中は日曜日』の方が好みではあったのですが、さすが殊能先生、あるいはさすが石動といったところか、意外にも意外で、とにかく楽しかった。

 

マーガレット・ミラー『まるで天使のような』

まるで天使のような (創元推理文庫)
 

  この本は以前から高い値段がついていて、ツイッターなどでも、どなたかが買ったとか見つけたという報告をされると、いろいろな人が羨ましがるような一品で、今回の復刊は私も非常に楽しみにしていました。そんな評判に一寸も違わぬ傑作です。人探しから始まって、地味な調査が続いていくのですが、この調査の道中や人との絡みも非常に理知的な言い回しに風情があり、まったく飽きませんし、ひとつひとつのエピソードの配置も絶妙で、非常に面白かった。宗教が話の中心を占めますが、その異様な感覚もとにかく魅力的で、そのうえサプライズもあり、という贅沢な作品でした。これが初めて読んだミラーだったのですが、ぜひ他の作品も読んでみたいです。

 

 伊藤計劃虐殺器官

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

 

  2015年は計劃三作品映画化、とのことだったので読みましたが、『虐殺器官』は会社の事情で延期という事態になってしまいました。残念です。楽しみにしています。さて、本作ですがやはり伊藤計劃は凄いなあと思います。この作品を読む前に円城塔が書いた『屍者の帝国』を読んでいたのですが、それと比較すると、計劃の語りは本当に柔らかくって、穏やかで、そういった物語を受け取ることに苦労しません。この作品の一人称が「ぼく」というのも印象的でした。物語は戦争を主題にしていますが、スケールの大きさよりも、もっと内側に、精神に、「ぼく」という人間と、それに纏わるものという規模に注力されているような部分がとてもよかった。映画化に際して『ハーモニー』も二年ぶりに再読しました。『ハーモニー』の方が好みで、こちらはもうオールタイムベスト級に好きなのですが、どちらもとても面白かったです。

 

倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』

  倉橋由美子も少しずつ読み進めているのですが、現時点ではこちらがベストです。もう、何と言ったらいいのかわかりません。それは、あれもこれも面白くて、面白いところを説明したらきりがない! ……という意味ではなく、こんなに意味が分からなくて、本当に変な小説だったのに、どうして面白かったのだろう、という妙な感覚が胸に張り付いてとれないからです。ある意味奇書と言ってもいいでしょう。島に潜入したQという男が、とにかくいろいろな人たちに出会い、変な体験をする。それだけのお話なのですが、読んでいる私も途轍もない悪夢を見たような気分です。どいつもこいつも心底気持ち悪い。でも、そこが最高。そんな小説でした。

 

円居挽河原町ルヴォワール』

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

 

  京都の私的裁判を主題に置いたシリーズの第四弾でシリーズ完結編。この巻からお読みになっても意味がわからないと思いますので、読まれる場合はぜひ第一弾『丸太町ルヴォワール』からお読みください。さて、この完結編はとても感動しました。衝撃的な展開、凄まじいどんでん返しと、様々なサプライズで楽しませてくれたシリーズでしたが、まさにこのシリーズにふさわしいラストを飾ってくれたと思います。感無量です。

 

大江健三郎『死者の奢り・飼育』

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

 

  大江健三郎の初期短編集です。さすがノーベル賞作家といいますか、もう本当にびっくりしました。堅苦しい文章ではなく、本当に瑞々しい文章をお書きになるのです。けれど、非常に生々しい。死体だったり病室だったり暗い部屋だったり、そういった何かが充満しているような空間がたくさん出てくるのですが、それを含め、そこに纏わる人々も含め、なんだか「匂い」が文章の外へと沸き立ってくるような、そんな感触なのです。とても衝撃的でした。

 

 ジェイムズ・ヤッフェ『ママは何でも知っている』

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  以前から安楽椅子探偵ものの最高峰、とお聞きしていたので読みたかったのです。この度復刊ということで読みました。これは素晴らしかった。探偵役のブロンクスのママは、ちょっとだけ小賢しい感じのママさんなんですが、推理となるとこの切れ味が強靭なのです。キレッキレです。軽妙な会話劇の中に、惚れ惚れするパズル。話数が進む度に、少しずつ哀愁が湧いてくるような味わい深さも見事です。

 

栗本薫『絃の聖域』

新装版 絃の聖域 (講談社文庫)

新装版 絃の聖域 (講談社文庫)

 

  栗本薫の創造した探偵・伊集院大介が初めて登場する長編だそうです。この作品で初めて栗本薫を読みました。傑作です。ある一家と、一家に纏わる人々の泥沼な関係の中に起こる殺人――という極めてオーソドックスな筋立てで、実際物語展開もそこまで激しいわけではないのですが、「邦楽」という芸を嗜む一家の描き方が非常に印象的です。芸を目指し、芸を極める人間の意志や想念が一気に収束するようなラストには、思わず震えてしまいました。タイトルにもある「絃」、すなわち「糸」が、一族の系譜という大いなる糸、人間と人間の関係を結ぶ糸、犯罪という細い綱渡りのような糸、そしてもちろん楽器の絃――というように、いろいろなモチーフとして作品の随所に張り巡らされているのも見事だと思います。

 

米澤穂信秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

 
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

 

  2015年は結構米澤穂信を読んだように思ったのですが、意外とそんなに読んでいませんでした。今回選んだのは〈小市民〉シリーズの、現時点での最新作です。小鳩くんと小佐内さんの関係に馴染んだ読者からすればなかなかに意表を突く前作のエンドから、まさかこうくるかという新しい関係が描かれ、また新たな事件が描かれます。大きな事件があり、その最中に小さな謎が描かれるのですが、その小さなものを着実に解いていく部分もキレがあって楽しいですし、大きな事件の方は真相自体は見えやすいとはいえ、やっぱりその「向こう」に潜んでいたものをぎりぎりまで隠して最後に引きずり出す、その構成に痺れますね。なんだかこう、ガッツポーズしてしまいました。

 

村上龍コインロッカー・ベイビーズ

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

 

  本の存在自体は知っていながら、まあ読むことはないだろうと思っていた作品です。ところがいろいろあって読むことになり、村上龍も初めて読んだのですが、これは凄い作品でした。もう何から何まで凄い。グロテスクだし、気色の悪いものや胸糞の悪い展開も含めて、生理的な勢いが爆発的な力を持って攻めてきます。そういう気持ちにさせてくれるというのがまず凄い。しかし、終盤、特にラストのとある人物の決定的な、宣言にも似たある一言が強烈な印象で最高だったと思います。

 

泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

 

  やっぱり亜愛一郎シリーズは凄いですね。本当にマジックを見ているかのような、奇術で魅了するようなミステリ短編が並んでいます。どれもクオリティが高く、印象に残っています。どれもベスト級ですが、私はこの中だと「藁の猫」という短編が特に好きでした。次の巻『逃亡』も、すでに持っていると思っていたんですが、まさかの『転倒』をもう一冊持っていたという。初めて同じ本を二冊買ってしまいました。

 

安部公房『他人の顔』

他人の顔 (新潮文庫)

他人の顔 (新潮文庫)

 

  安部公房は今年『砂の女』とこの作品を読みましたが、この作家はこれからもたくさん読んでいきたいな、と強く思いました。どちらも非常に優れた作品で素晴らしかったのですが、こちらの方を今回は選ぼうかなと。大火傷で顔を潰してしまった男が仮面を作って、それにまつわるエピソードが、書き残されたノートという体裁で語られていきます。読んでいてぐさぐさと突き刺さるものがたくさんありましたし、仮面という物体がもう物でないような描き方に暴走していくような様子が強烈でした。

 

エドマンド・クリスピン『列車に御用心』

列車に御用心 (論創海外ミステリ)

列車に御用心 (論創海外ミステリ)

 

  ジャーヴァス・フェン教授が活躍するミステリ短編集です。どれも短い話でまとめられていますが、驚くほどに端正で、巧さがそこかしこに見え透いている短編集です。素敵なトリックとか目を見張るような大胆さのある仕掛けがあるわけではないのですが、手掛りの配置や論理の導き方に切れ味があり、堪能しました。ベストは「高速発射」という短編で、これも本当に地味な短編ですが、「鮮やか」という言葉はこの短編のためにあるのではないかと思うほど鮮やかな推理が披露されています。

 

太宰治パンドラの匣

パンドラの匣 (新潮文庫)

パンドラの匣 (新潮文庫)

 

  太宰、凄いぞ太宰。そんなこと今更知ったのか、と言われるのも仕方がない。『人間失格』と『晩年』だけ読んだまま放置していたのがもったいないほど面白いです。この本には「正義と微笑」「パンドラの匣」という中編が二編収められています。どちらも紛うことなき傑作です。一応、この二作は後期の作品(自殺するちょっと手前)のはずなんですが、非常に爽やかで、生きていくことの眩しさが満ち溢れたような、そんな作品になっています。もう、ところどころにふっと浮き出る感情とか言葉がいちいち尊いし、ハッとさせられて……感動しました。素晴らしい作家です。

 

 以上20作品でした。

 ここからは、長々と語りはしませんが、今年読んだ短編から特によかったなあと思うものを書き出してみたいと思います。今年はあんまり本が読めなくて、かつ短編集もそこまで手を出せなかったので、意外とベストはすんなりと決まりました。

 

<ミステリ短編10選>


山田風太郎「帰去来殺人事件」
連城三紀彦「花虐の賦」
泡坂妻夫「藁の猫」
森博嗣「小鳥の恩返し」
青崎有吾「吸血鬼」
梓崎優「スプリング・ハズ・カム」
法月綸太郎「錯乱のシランクス」
トマス・フラナガン「獅子のたてがみ」
エドマンド・クリスピン「高速発射」
ジェイムズ・ヤッフェ「ママは何でも知っている」

 

<非ミステリ短編10選>

谷崎潤一郎「蘆苅」
大江健三郎「飼育」
岡本かの子「小町の芍薬」
倉橋由美子「蛇」
吉本ばなな「白河夜船」
高橋たか子「人形愛」
秋山瑞人「おれはミサイル」
エドガー・アラン・ポー「赤死病の仮面」
ヘレン・マクロイ「風のない場所」
セアラ・オーン・ジュエット「マーサの愛しい女主人」