有理数のブログ

本や趣味について書いていくブログです。

2016年に読んだ本20選

あけましておめでとうございます。

 

一年前に「今年も更新がないかも」と書いたら、本当に更新できませんでした。

来てくださっている方には、本当に申し訳ありません。

今年もやはり更新できないかもわかりませんが、今年もよろしくお願いします。

2016年に読んだ本で特によかったものを紹介したいと思います。

ジャンルはごちゃまぜです。

 

城平京『雨の日も神様と相撲を』

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

 

  城平京は、私の人生にもっとも深い影響を及ぼした作家であり、私が愛してやまない作家です。1998年にデビューして以降、オリジナル小説はデビュー作の『名探偵に薔薇を』と『虚構推理』の二作品しか刊行していませんでした(デビュー前に短編がアンソロジーに採られたこともありますが)。寡作なのではなく、漫画原作を主にしていらっしゃるのです。そういうわけで、城平京の作品に触れる機会はあったのですが、やはりファンとしては城平京の「小説」が読みたいなあ、と思うこともあり。そんななか、ついに2016年、講談社タイガの一作品として発表されたのがこの『雨の日も神様を相撲を』だったのです。不思議なタイトルでしょう。そういう作家なのです。あらすじはというと「カエルの神様が信仰されている村に引っ越した元相撲少年が、カエルの神様に相撲を教える」というものです。意味不明でしょう。そういう作家なのです。しかし、これがひたすらに面白く、ロジカルにロマンチックで最高なのです。私が城平京のファンだから贔屓目に見てしまうのか、あるいは私のツボにダイレクトすぎるだけかもわかりませんが、カエルや相撲といった要素を濃密に絡ませ合い、ミステリ作家らしい方法論を巧みに張り巡らせた構成は見事という他ありません。青春小説として、伝奇小説として、滅法楽しい小説でした。

 

山田風太郎忍びの卍

  何度も言うのですが、山田風太郎は本物の天才で、面白いものを書かせたら日本で一番の作家と思います。何を読んでも確実に水準以上の面白さを見せてくれるので、本当にもったいないから、となかなか読まないのですが、昨年はこの一作品だけを読みました。案の定、最高に素晴らしい一作でした。「舌で舐めた部分を性感帯化させる忍術」「性行為をした相手に憑依する忍術」「性行為後に相手の女を殺し、その血液を刀で飛ばして血液に触れた者の肉を溶かす忍術」という、とにかく下品な術を扱う忍者たちが登場します。非常に馬鹿馬鹿しい設定なのですが、内容は激熱です。先ほど挙げたような忍術同士が、おおよそその術内容からは予想もつかない果てしない頭脳戦を繰り広げるのです。忍者たちの立ち振る舞いもかっこよく、勇ましく、哀愁が漂っていて、序盤で感じた馬鹿馬鹿しさは後半に向かうにつれ息を潜め、とにかく先へ先へとぐいぐい読ませてくれます。本当に素晴らしい作品です。

 

サラ・ウォーターズ『荊の城』

 

  このブログでは語ったことがないと思いますが、私は百合が好きです。女の子と女の子の関係が好きなのです。そんな界隈で「百合小説」の話題になるたびに必ず挙がるのがこの『荊の城』でした。上下巻でなかなか分厚いのですが、これも最高に面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。令嬢と女泥棒のささやかな交流、日常生活の細やかな描写の堅実さに、積み上がっていく心理のアンビバレンス。甘美な肌触りに酔いしれているところに殴り掛かってくる展開たるや贅沢の極みで、重厚にして絢爛なミステリー冒険譚を楽しみました。素晴らしい。ウォーターズはもっと読んでいきたいです。

 

コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない』『アルファ・ラルファ大通り』

 

アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

アルファ・ラルファ大通り  人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

 

  毎年必ず一人くらい「今年はこの作家との出会いが印象的」という作家がいるのですが、2016年はこのコードウェイナー・スミスとの出会いが特に印象的です。言語感覚が美しく、しかしそれらがときどき説明されないまま進むので、まるで英語長文で判らない単語が登場した際、文脈で補うような、そういう読み方を促されます。しかし、それ故に想像力が翼を持って羽ばたくような、静謐な衝撃がやってくるSF作品群でした。何よりタイトルが素晴らしい。「星の海に魂の帆をかけた女」「帰らぬク・メルのバラッド」……ぞくぞくくるようなタイトルです。この「人類補完機構全短篇」シリーズは第三巻まで予定されており、最終巻を待っているところです。楽しみです。

 

カーター・ディクスン『ユダの窓』

ユダの窓 (創元推理文庫)

ユダの窓 (創元推理文庫)

 

  カーはゆっくりゆっくり読んでいます。『ユダの窓』は評判がよく、どれほどすごいのだろうと思って読みましたが、これはすごいですね、もうにやにやが止まりませんでした。ヘンリ・メルヴェール卿という人が圧倒的不利な裁判をひっくり返すのが主な筋立てですが、この人が持って回った言い回しをするので、それが滑稽で面白くも「あっ、くるぞ!」というのが、その態度で何となく察しがついて、その瞬間の高揚感といったら溜まりません。この人、次の場面で、ものすごい事実を指摘するんじゃないか。そういう期待を高めて、本当にものすごい事実を指摘する。巧みな演出が光ります。章題も素晴らしい。

 

中村融編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』

  2016年は中村融が編者の時間SFアンソロジー『時を生きる種族』と『時の娘』を読みました。どちらも流石に傑作選過ぎて、どれも素晴らしい短編でしたが、個人的な好みとしてはこちらのファンタスティックを選びたいです。不可逆にして強大な「時間」というものに挑戦すること、叛逆すること、それ故に生まれゆく凄絶な物語が巧みな手管で収斂された作品が揃っています。このほとんどが雑誌に載って長い間埋もれていたとは信じられません。

 

久生十蘭『墓地展望亭・ハムレット 他六篇』

  久生十蘭は面白いなあ! 全てが美しく精緻で、全てが面白いです。どの短編にも通底するのは、生と死の境界、自分と他人の境界、夢と現実の境界という主題です。何かと何かの「境界」を絶妙な感覚ですくいとり、物語として収束させています。人間がいかにして自分の存在を証明するか、逆に証明しないことでどのように生き抜くか。オカルティックなサスペンスや、心霊譚、欧州のめくるめく冒険活劇、探偵小説と、豊かな物語運びで、小説の魔術師と呼ばれていたのも納得です。舞台上演中の事故以降、平常時もハムレットとして生きる男の数奇な運命を語る「ハムレット」が特に好きでした。「墓地展望亭」「雲の小径」もお気に入り。十蘭もまだまだ読みたい作家です。

 

高原英理編『リテラリーゴシック・イン・ジャパン:文学的ゴシック作品選』

  2016年はアンソロジーを幾つか読んだのですが、これも文句なく素晴らしい、あまりにも素晴らしいアンソロジーです。ゴシックといえば私も吸血鬼だったりポオの諸作を思い浮かべますが、このアンソロジーは「不穏の文学」「人間の暗黒面への興味」という大まかな定義で捉え、ゴシック小説を書くという意識がなくとも、明らかにゴシックの様相を呈しているものを選び抜いたようです。当然作家で色合いは異なりますが、どこか共通する残酷さ、暗澹とした空気が蔓延っています。何より、作家のメンツが豪華で、同時にどの作家もタイトルの付け方が見事すぎて、目次を見ているだけで日が暮れそうな垂涎もののラインナップです。その中でも大変衝撃を受けたのは高橋睦郎の「第九の欠落を含む十の詩篇」で、言葉による世界創造の極北を見ました。凄すぎる。

 

連城三紀彦『顔のない肖像画

顔のない肖像画 (実業之日本社文庫)

顔のない肖像画 (実業之日本社文庫)

 

  やっぱりすごいよ、連城三紀彦。収録作全てが鮮やかな一撃と巧妙なプロットで魅せてくれて、こういった水準の驚きを短編集で用意できるのは本当に凄いことだと思います。相変わらず不倫浮気が多いのですが、描かれる物語のバリエーションは豊かで、読みやすくもあり、大満足の短編集でした。個人的には緊迫した空気に鉄槌を振り落すかのような倒叙ミステリ「夜のもうひとつの顔」がお気に入り。

 

パトリシア・ハイスミス『キャロル』

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)

 

  映画にもなって話題になりました。が、申し訳ありません、映画の方は見に行っておりません……何という不覚。しかし、こちらの原作も素晴らしく面白く、感動的な一作です。行為にも言葉にも想いにも、とにかく恋の狂おしい情熱が寄り添っています。人を愛することの幸福、肌を重ねるとき、世界には「わたし」と「あなた」たった二人だけだという幸福。もちろん、不安と戸惑いはいくらでも付き纏ってきますが、それでも、精神の中で瞬いた選択肢を思うままに、やりたいように選び取る。そういう熱量が出会いの瞬間から始まり、これからも続いていくのです。尊い。

 

 乙一他『メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション』

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション
 

  あの乙一と山白朝子と中田永一が揃い、さらに越前魔太郎も加わり、安達寛高が解説を添えるという何とも豪華な一冊です。乙一は私の読書のルーツに当たる人ですし、山白朝子は大学生時代に大変な衝撃を受けた作家ですから、そういうひとたちが揃うというのはそれだけでものすごいワクワクしました。内容も素晴らしい作品が揃っています。特にお気に入りなのは、乙一の「山羊座の友人」です。漫画にもなったようですがそちらは未読。乙一らしいささやかな非日常と理不尽さ、残酷さ、そこにミステリのエッセンスが見事に作用した傑作と思います。山白朝子「トランシーバー」も感動しましたし、いろいろな感情に溢れたアンソロジーです。やっぱりいいなあ。

 

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

 

  ソウヤーはいろいろなところで、とにかく面白いよ、という話を聞いていて、ようやっと昨年読んだのですが、確かに滅法面白くて震えました。読む手が止まりません。タイトルにもあるように、地球にエイリアンがやってきて、少しずつ地球人とも仲良くなっていく……というファーストコンタクトものです。しかし面白いのが、ようやく仲良くなってきた最中、殺人事件が起き、その犯人として異星人が最有力候補に挙がってしまうというところです。殺害現場には異星人の鱗が落ちていたからです。かくて異星人を被告とした、壮絶な法廷劇が繰り広げられます。法廷劇としての白熱した駆け引きもあり、しかし法廷の中で、少しずつ異星人の生態や文化、思想の輪郭に触れており、SFミステリとして抜群の面白さを誇っています。もう夢中で読みました。

 

山川方夫『親しい友人たち(山川方夫ミステリ傑作選)』

  山川方夫という作家も、2016年に初めて読んだ作家です。若くして亡くなった作家ということでしたが、本当にそれが惜しまれます。この傑作選に収められている作品には、とにかく「美学」が溢れています。冒頭と幕切れの美学。誰かの人生を謎と思惑で切り取って、柔らかにじわりと生命の奇妙さを浮上させる。推理の手管で魅せる物語はあまりありませんが、着地、とにかく着地と捻りが見事で、そこまで通り過ぎた冒頭から過程までの人々の営みがぐっと胸に迫ってくるような、本来の意味でのミステリ(神秘)の風景が広がっています。「お守り」などはオールタイムベスト級の短編ではないでしょうか。

 

倉橋由美子『大人のための怪奇掌篇』

大人のための怪奇掌篇 (宝島社文庫)

大人のための怪奇掌篇 (宝島社文庫)

 

  倉橋由美子というと『スミヤキストQの冒険』のように、ものすごい奇妙だったり思想的な団体が出てきたりというような作風を想像しがちだったのですが、この掌篇集は、起承転結もはっきりとした、極めてエンタメチックな作品集で驚かされました。どれも十ページ程度の作品なのですが、見事なオチや技巧が凝らしてあり、かなり面白いです。もちろん倉橋由美子らしい「不条理が不条理のままにされている」ような、心に妙な淀みと不穏さを残す幻想譚もあり、とても楽しく読みました。

 

ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』

南十字星共和国 (白水Uブックス)

南十字星共和国 (白水Uブックス)

 

  滋味溢れる秀作が並んだ残酷物語集。「夢」と「現実」を往来する陶酔感が素晴らしい。収録の各短編のほとんどが、誰かの語りか、あるいは何者かによる記録の体裁を取っています。つまり主観的な物語たちであり、だからこそ「夢」と「現実」の狭間の物語たりえているのでしょう。表題作は非常に面白かったです。南極大陸に栄えたユートピア「星の都」で、自分の欲望とはまったく真逆の行動に走ってしまう伝染病「自己撞着狂」が流行り出し、ただ理不尽に、ただ残酷に人々が発狂していく記録。ものすごく恐ろしかったです。外国の文学も面白いものが多くて、2017年ももっと手に取ってみたいです。

 

深緑野分『オーブランの少女』

オーブランの少女 (創元推理文庫)

オーブランの少女 (創元推理文庫)

 

  これは単行本刊行当時から気になっていたのですが、結局文庫化してしまいました。デビュー作とは思えない洗練された作品たちで、非常に面白かったです。美しさと恐怖が表裏一体のように張り付いて、主役の少女たちに宿っているような。愛おしくもあり、苦々しくもある、そういう短編集です。特にお気に入りなのがラストを飾る「氷の皇国」で、恐怖政治と人間の営みが悲しくドラマチックに演出された壮大なミステリです。どの短編も、時代だったり舞台となる国が異なるのですが、豊かな引き出しと、しかし似通った空気を醸し出せるあたり、確かな手つきが感じられてよかった。話題となった『戦場のコックたち』も読みたいです。

 

太宰治『ろまん燈籠』

ろまん燈籠 (新潮文庫)

ろまん燈籠 (新潮文庫)

 

  太宰はね、太宰はねえ……最高なんですよ……! 表題作「ろまん燈籠」は個性豊かな五人兄妹がリレー小説を行うというお話なんですが、太宰の描く家族が好きで好きで。自分の性格に真っ直ぐで、誰かを心の底から尊敬していて、美しいこと感動したことがあれば大いに笑い大いに涙を流す。この作品集は主に太平洋戦争期のものですが、表題作に限らず、敬虔な眼差しと言葉が込められていてはっとさせられます。悲哀はあれど陰鬱さはありません。愚直、ただ愚直なだけです。誰も自分の生活を誇りにして、慎ましく、けれど煌びやかに生きている。そこが素晴らしい。

 

村上春樹スプートニクの恋人

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

  村上春樹、やっぱり面白いですよね。物語がすっと心に沁みこんできます。村上春樹は料理とか家事の描写をよくお書きになっていますが、ああいったことをきちんと書いてくださると、なんとなく心の泉が満たされていく気分になります。この小説は、とある女性に恋した女性と、その友人の「ぼく」がメインとなって進行しますが、エピソードひとつひとつがとても不思議で面白かったです。恋愛小説でもあるんですが、登場人物が小説家になりたがっていて、そのためにときどき出てくる人物たちの創作に関する姿勢も興味深かったです。

 

森博嗣夢・出逢い・魔性

夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)

夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)

 

  森博嗣による、瀬在丸紅子を主人公にしたシリーズ「Vシリーズ」の第四話目です。2016年はこのVシリーズを全話読みました。森博嗣も読んでいて、心が洗われるような気持ちになる作家の一人です。Vシリーズはどれも面白かったですが、面白さでいえば、第四話目のこちらがとても気に入りました。紅子たち主人公の一行がテレビ番組に出演する、という筋立ても面白いですし、登場人物が車をかっ飛ばしたり、幽霊らしき人物による挿話もあって、事件と物語が唸りに唸るところが楽しい。ささやかな手掛かりから犯人を特定する紅子の推理も好きです。森博嗣はサプライズ精神の旺盛な作家で、騙しに騙されました。2017年は「四季シリーズ」に手を出したいですね。

 

麻耶雄嵩『螢』

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

 

  またやってくれましたよ、麻耶雄嵩。私にとって麻耶雄嵩という作家は、出会いが最悪だったために、未だに「ぐぬぬ」と身構えるのですが、やっぱりすごいことをしていると思います。確かに筋立て自体はシンプルなクローズドサークルものですが、シンプルが故にこの技巧が目立つのではないでしょうか? まさに本格ミステリでしょう。読んでいる間も居心地が悪く、きっとこういう答えなんでしょ? と思っていたら、予想外の角度から殴られ唖然。後半の推理がややくどいかなあ、と思いつつも、参りました、という気持ちの強い快作と思います。

 

 以上、20作品が2016年のベストです。

 

<2016年に読んだミステリだけのベスト>


カーター・ディクスン『ユダの窓』

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

サラ・ウォーターズ『荊の城』

皆川博子『開かせていただき光栄です』

津原泰水ルピナス探偵団の当惑』

都筑道夫『くらやみ砂絵』

青崎有吾『水族館の殺人』

麻耶雄嵩『螢』

森博嗣夢・出逢い・魔性

連城三紀彦『顔のない肖像画

 

<2016年に読んだミステリだけの短編ベスト>

 

連城三紀彦「夜のもうひとつの顔」

深緑野分「氷の皇国」

乙一山羊座の友人」

都筑道夫「天狗起し」

法月綸太郎「懐中電灯」

江戸川乱歩「石榴」

山川方夫「お守り」

 

<2016年短編ベスト>

乙一山羊座の友人」

笹沢佐保「赦免花は散った」

津原泰水「埋葬虫」

久生十蘭ハムレット

山川方夫「お守り」

倉橋由美子「夕顔」

連城三紀彦「夜のもうひとつの顔」

コードウェイナー・スミス「クラウン・タウンの死婦人」

ワレリイ・ブリューソフ「南十字星共和国」

ロバート・F・ヤング「真鍮の都」