有理数のブログ

本や趣味について書いていくブログです。

2017年に読んだ本10選

あけましておめでとうございます。

今年も例によって更新はほとんどないかもしれませんが、今年もよろしくお願いします!

 

さて、今年も、昨年読んだ本の振り返りをしようと思います。

今回で三回目です。時間が経つの早いですね。

ジャンルはごちゃまぜです。

 

澁澤龍彦『高丘親王航海記』

高丘親王航海記 (文春文庫)

高丘親王航海記 (文春文庫)

 

  昨年は澁澤龍彦没後三十年ということで、澁澤関連の本もたくさん出たようです。近所の書店でも河出書房新社の文庫がフェアで平積みされていてびっくりしました。私もその流れに乗って、昨年は澁澤龍彦を三冊ほど読みました。中でも、澁澤の遺作となったこちらの『高丘親王航海記』は本当に素晴らしい一冊でした。天竺を目指して旅に出た高丘親王一行が出逢う、夢現と夢幻。鳥の下半身をした女、犬の頭をした人々。そんな風に、この世のものと思えない悪夢的な光景がいくつか描かれています。けれど、それらはまったく不気味ではなくて、儚げで、しめやかです。旅は最後まで極めて絢爛に続き、安らかな余韻を持って幕を閉じます。本当に美しい小説です。

 

佐藤弓生『薄い街』『モーヴ色のあめふる』

モーヴ色のあめふる 現代歌人シリーズ

モーヴ色のあめふる 現代歌人シリーズ

 
薄い街

薄い街

 

 毎年おひとりくらい「今年はこの作家との出会いが印象的だったなあ」という出会いがあって、2017年は間違いなく佐藤弓生です。小説ではなく短歌です。昨年は書肆侃侃房『モーヴ色のあめふる』と沖積舎『薄い街』の二つの歌集を読みました。本当に素敵な短歌を詠まれる歌人です。私は短歌には全然触れたことがなく、唯一触れたものといえば、池澤夏樹の日本文学全集『近現代詩歌』ですとか、あとは葛原妙子くらいなもので、短歌の鑑賞方法や作法といったものもまったく知りません。しかし佐藤弓生の短歌を初めて目にしたとき、雷が落ちたような衝撃を受けました。いえ、もうちょっと柔らかかったかもしれませんが、確かに、びびびっと来たのを憶えています。すぐに『モーヴ色のあめふる』を取り寄せました。素敵な短歌ばかりで、私の好きな言葉、好きな空気だけで歌が紡がれています。幻想の眼差し、この世にあるものとないもののあわいに浮遊する寂寥。大好きです。

「夏の朝 なんにもあげるものがない、あなた、あたしの名前をあげる」

「言語野はいかなる原野 まなうらのしずくを月、と誰かがよんだ」

「神さまのことを考えてしまうのは いるのに、いない人がいるから」

 

 ダフネ・デュ・モーリア『鳥―デュ・モーリア傑作集』

鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

 

  デュ・モーリアも昨年初めて読んだ作家でした。『レベッカ』などの有名な作品は読んでおりませんが、熱烈な支持があることは知っていて、この傑作集も特にミステリ好きな方々が絶賛していたので手に取りました。こういう一冊に出会えるから読書は辞められないんだよなあ、と強く思う、紛うことなき傑作集です。物語に溺れることの醍醐味に溢れています。恋や恐怖、哀しみ、やるせなさ。いろいろな感情を起点に、物語を優雅に荘厳に切り取り語る。まさにストーリーテラーです。どの短編も凄まじい余韻が後を引きます。

 

ヘンリイ・セシル『法廷外裁判』

法廷外裁判 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

法廷外裁判 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  法廷ものの傑作として名高いこの作品ですが、現在品切れ中で、長い間ずっと手に入らないままなのですが、偶然古本で発見してしまい、すぐさま飛びついた一作です。結論から言いますと、お願いだから復刊してくれ! こんな傑作が手に入りにくいのはあまりにももったいない! と叫んでしまうような作品です。病的なまでに嘘が吐けない男が証人の偽証で終身刑になってしまうのですが、これに納得できない男は、刑務所から脱獄し、判事や弁護士、関係者を誘拐監禁して、裁判のやり直しを命じるのです。この筋立てからしてめちゃくちゃ面白いのですが、裁判の模様も大変に面白いです。当然、判事や弁護士たちは監禁されており、すでに刑が決まったはずの裁判をもう一度無理やりやらされるわけですから、当然乗り気ではないんです。ただ、裁判をやらないと監禁されているお屋敷から出してもらえない、だから仕方なく……と、誰もが不承不承裁判を始める。しかし、裁判を進めていくにつれて「もしかしたら、あのときの裁判は偽証があったのではないか?」と誰もが少しずつ疑い始めていきます。その過程が見事で、ユニークで、巧いところです。終身刑の男のライバルにあたる女性も登場し、キャラクターも魅力的。幕切れも見事という他ありません。素晴らしい法廷ミステリです。

 

酒見賢一後宮小説

後宮小説 (新潮文庫)

後宮小説 (新潮文庫)

 

  第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。日本ファンタジーノベル大賞は今では絶大な人気を誇る作家たちを何人も輩出した偉大な賞なのですが、その第一回がこの『後宮小説』というのも凄いですね。問答無用に面白い作品です。後宮に入ることになった少女・銀河と、彼女が出逢う人々との交流。題名の通り「後宮」の小説で、銀河の歩んでいく道や、個性的な登場人物たち、土地、風土、あらゆる要素が「後宮とは何ぞや」に通じています。それでいて、たまらなく楽しい娯楽小説になっているのが本当によいのです。歴史書風の格調高い文章と記述もあって、世界に入り込めます。特に、冒頭の書き出しは最高の書き出しです。

 

月村了衛『機龍警察自爆条項』

  『機龍警察』面白いよ! とは何度も聞いていました。早川から昨年完全版が出たので、これを機会に読みました…………が、今まで読んでいなくて申し訳ありませんでした……はちゃめちゃに、めちゃくちゃに、面白いです。駆け出したら止まらない爆発力。エンターテイメントだ。最高です。機龍を操る機龍警察とテロリストの手に汗握る対決もかっちょいいのですが、登場人物の配置も見事すぎます。人間の心情と立ち位置を思えば、クライマックスにやってくる展開も見通せそうなものですが、それに気付かせない技量もあり。いやはや、とんでもないシリーズですね。続きも読みます。

 

 レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』

アンチクリストの誕生 (ちくま文庫)

アンチクリストの誕生 (ちくま文庫)

 

  物語に溺れるという意味では、先ほどの『鳥』と同じくらい『アンチクリストの誕生』にも熱狂しました。アイデアや発想が尋常ではなく、そのアイデアだけで勝負するのではなく、綿密に人間に絡み合い、確かな幕引きへ向かっていく物語。表題作は、夢判断によって生まれてくる子が世界を滅ぼす「アンチクリスト」であると悟った男と、その妻、子どもの物語。めくるめく運命と二転三転するお話に、奇想が寄り添います。とても面白い中短編集です。

 

 パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』

悪党どものお楽しみ (ちくま文庫)

悪党どものお楽しみ (ちくま文庫)

 

  いやー、これはめちゃくちゃ楽しくて面白い短編集でした。名を馳せた賭博師だったビル・パームリーは引退して農家へ。しかし、友人のトニーに担がれ、ポーカーやチェスといった様々な遊戯のイカサマ事件へ駆り出されます。このビル・パームリーがね……めちゃくちゃかっこいいんですよ。もうそういったイカサマやゲームとは無縁の生活を送ろうと思いながらも、ゲームの現場へひとたび入れば涼しくイカサマを見破り、局面を掌握する。いい意味で情けないトニーとのコンビも抜群。痛快爽快な、ギャンブルミステリです。

 

中山可穂サイゴン・タンゴ・カフェ』

サイゴン・タンゴ・カフェ (角川文庫)

サイゴン・タンゴ・カフェ (角川文庫)

 

  いろいろなものが突き刺さる、しかし間違いなく珠玉の短編集。特に表題作「サイゴン・タンゴ・カフェ」の力といったら強烈です。私は、もう助けてくれ、という気持ちで読みました。ひとりの小説家と、小説家と向き合う編集者の話です。静謐な文章が読み進めながら脳内で火花を散らし、ざくざくとむき出しの感情で迫りくる。あまりにも痛みを伴った、けれど同時にあまりにも眩しい恋の物語。助けてくれと書きましたが、同時に、助からなくてもいい、と思えるくらいに、全編タンゴの音色と彩りに溢れ、美しい一編です。もちろん、どの短編も面白いですよ。

 

 <短編小説ベスト2017>

泉鏡花陽炎座

円状塔「バベル・タワー」

天藤真「完全な不在」

中山可穂サイゴン・タンゴ・カフェ」

夏樹静子「二つの真実」

宮内悠介「人間の王」

向田邦子「大根の月」

デュ・モーリア「動機」

レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」

ジャック・ヴァンス「月の蛾」

 

 

<ミステリだけの長編ベスト2017>

 

ヘンリイ・セシル『法廷外裁判』

パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』

マーガレット・ミラー『狙った獣』

デュ・モーリア『鳥―デュ・モーリア傑作集』

月村了衛『機龍警察自爆条項』

夏樹静子『夏樹静子のゴールデン12』

辻真先『アリスの国の殺人』

青木知己『Y駅発深夜バス』

天藤真『遠きに目ありて』

芦沢央『今だけのあの子』