今年読んだ本10選(海外編)
今年読んだ本のうち、海外で好きなものを挙げていきます。
一つ前の記事では国内編をやっています。
というわけで、海外編です。
エラリー・クイーン『ギリシア棺の謎』
エラリー・クイーンは今年『Xの悲劇』『ギリシア棺の謎』『エジプト十字架の謎』を読みましたが、どれも全盛期だけあってとても面白かったです。中でもこの『ギリシア棺』はぶっちぎりで好きでした。有栖川の『双頭の悪魔』の時にも書きましたが、これくらい推理推理推理! という感じだととにかく楽しい。常にニヤニヤしながら読んでいた気がします。偉そうに高説垂れるエラリーくんが敗北するものいいですし、敗北したからこそ推理と論理が収斂されていくのです。今のところクイーンで一番好きですね。
アントニイ・バークリー『第二の銃声』
とにかく熱い、手に汗握る激熱パズルです。いやこれはパズラーじゃないだろ、と言われそうですけれど、こうでこうでこうだからこうなのだ、が積み重なりまくる後半の推理がよかった。殺人劇の最中に殺人が起こるという単純な構成ながら綿密なプロット、登場人物も個性的で、語り手のピンカートンが面白いのです。どんでん返しもかなり上手に決まっているし、シェリンガムのユーモアな推理に大満足。バークリーはこれで二冊目でしたが、やはり非凡な書き手だと確信しました。
T・S・ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』
心理学者ポジオリ教授を探偵役に据えた短編集。カリブ諸島など、どこか民族的で宗教的な空気の漂う場所での異色な展開が光ります。何よりこのポジオリ教授がとてもいいキャラクターで、極めて冷静で理知的ですが、怒ったりもするし、目立ちたくないとは思いつつも虚栄心もあって、巻き込まれては事件解決へ向かうという魅力的な探偵です。伏線の利いた堅実なミステリもありますが、やはり目につくのは民族的で哲学的な土台。特に最終話「ベナレスへの道」は「探偵小説の底が抜ける」とまで評されたあまりに衝撃的な結末です。私も思わず叫んでしまいました。これを実現させる説得力と、ホワイダニット。推理がこんな境地にまで到達するのか、というとにかく衝撃的な短編集です。
シオドア・スタージョン『一角獣・多角獣』
- 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,小笠原豊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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シオドア・スタージョンはこの本で初めて読みましたが、これも宮野村子のようにとても素敵な出会いだったと思います。一発で惚れてしまいました。それくらい素晴らしい短編集です。元々はこの本に収録されている「死ね、名演奏家、死ね」という短編が、ツイッターのミステリ短編オールタイムベストにランクインしたのがきっかけでした。SF作家ですが、ミステリ的興味も十分。SF要素も突き抜けて難しくない、浮遊感と切なさが漂っています。「死ね、名演奏家、死ね」はタイトルのインパクトも強いですが、普通の殺人からさらにもう一段階上にシフトした、まさに「姿なきを殺す」殺人の何とも異様な音楽ミステリ。変則フーダニットとしても機能しているし、結末も見事すぎて脱帽です。収録作がどれもベスト級で、ひとつひとつ唸りながら読みました。もっと読みたいです。
シャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』
シャーロット・アームストロングは以前からとても気になっていた作家です。というのも、私の一番好きな作家の城平京が何度も言及している作家だったからです。手に入りにくい作品が多く、私も機会がなかったのですが、今年になってやっと読むことが出来ました。こちらの一作は文春が行った2012年版ミステリーオールタイムベストでも上位100位ということで、やはり傑作。探偵役が推理する、というような形式ではなく、毒薬を巡るサスペンスです。前半の幸せな雰囲気が少しずつ翳りを見せ始めた時は、もしかしたら幸福に終わらないのではないかなとか、悲しい結末に終わるのかなとすごく不安でした。けれど一人ひとり仲間に加わっていく登場人物たちは皆とてもいい人で、善意に満ちていて、人間の可能性や運命についてとても素敵な考え方をしていました。そうして迎えたエンディングはとても晴れ晴れとしていて、心から感動しました。
アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』
アイザック・アシモフのSFミステリ。宇宙人殺害事件という題材もそうですが、ここまでSF的なガジェットや世界観とミステリが合致した作品だとは。素晴らしいです。地球人の刑事ベイリとロボットのダニールのコンビも個性的だったし、やはりロボット三原則とそれに準じた流麗なロジックです。作中ではいくつか推理が行われますが、そのどれもが未来社会の問題やロボットに結びついている。展開も熱くて面白すぎました。解決も美しいですし、様々な議論の行方など、SFとしてもミステリとしても一級品で、「SFミステリ」という言葉を体現したような作品でした。
パーシヴァル・ワイルド『検死審問-インクエスト-』
- 作者: パーシヴァルワイルド,Percival Wilde,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/02
- メディア: 文庫
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どうも私は熱い展開が好きなようですが、この作品も非常に熱いです。高名な女流作家の家で起きた殺人を中心とした法廷ものです。最初は人数の多さと審問制度になかなか馴染めませんでしたが、中盤以降の面白さは物語に没入せざるをえないものがあります。誰が、どうやって、どうして、というような三点だけではなく、様々な部分に遊びとサプライズが設けられ、二転三転する法廷劇はとても熱かった。
クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』
何と言っても今年はクリスチアナ・ブランドです。スタージョンも幸福でしたが、今年はブランドの面白さに染まっていました。黄金期のパズラーということで山口雅也も絶賛しているのは以前から知っていました。しかしここまで凄腕とは……『このジェゼベルの死』はとにかくトリックが凄まじいです。内田百閒はよく怖い場面で「水を被ったような……」という風に表現しますけれど、この作品のトリックはまさに読者をひたすらぞっとさせる、一撃必殺のトリックです。それだけでなく、容疑者がとにかく俺がやったんだ、と自白しまくるという自白合戦など、よくここまで面白い要素詰め込めるなあ、という充実ぶり。すごい作家です。
クリスチアナ・ブランド『招かれざる客たちのビュッフェ』
またまたブランドです。こちらは短編集ですが、何とも贅沢で珠玉の短編集です。倒叙もの、探偵、本格推理、密室殺人、法廷ものなど、バラエティに富んでいて、そのどれもが隙なく高レベルで揃っています。特に驚嘆したのは「ジェミニー・クリケット事件」で、密室殺人に切れ味の鋭すぎる推理が最高でした。多重推理の趣向がとても好みなのです。他にも「婚姻飛翔」「カップの中の毒」「スコットランドの姪」「ジャケット」「メリーゴーラウンド」「この家に祝福あれ」など、印象深い短編ばかりです。これを並べられるっていうのは、ホントに素晴らしい作家だと思いました。今年はブランドは長編で『緑は危険』も読みましたけれど、あれもすごく良くて、すごいすごいと馬鹿みたいに唸り続けています。
アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』
これも今更ですが、これが初ホームズです。幼い頃より名探偵コナンは好きですし、特に劇場版のベイカー街が一番好きだというのに情けない。でも、やっとこさ読みましたが、予想以上に面白かった。さすが、というのも失礼なほど凄いですね。事件と謎を魅力的に提示しようという気概がまずいいし、ホームズも頭脳は明晰ですが行動的で、まさに『冒険』という感じがよかったです。ホワイの骨頂「赤毛組合」や人間消失「くちびるのねじれた男」、敢えて被害者になりに行くスリリングな密室殺人「まだらの紐」、事件の構造解体が流麗な「緑柱石の宝冠」など。しかしながらどれもベスト級です。ドイルはやはり偉大ですね。